マグロ・カツオ恋物語

@boko

第1話マグロ・カツオ恋物語

<カツ実の心境>

  あぁ、好きになるってこんなにも苦しいことなのね。一瞬止まった私は胸の苦しみを感じながらあの人のことを考える。

 でも駄目よ!!それは禁じられた恋!!許されない事!!

 なぜあの方はマグロなの…。

 私はカツオ泳ぐことで体に酸素を補給する止まれない生物…。

 あの方を初めて見たのは数日前。私はいつもの様に他の仲間とお魚を捕食していたわ。


<カツ実の回想1 捕食>

 「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「死にたくない!!死にたくない!!」

 「助けて下さいお願いしますお願いします…。」叫び声を気にせずに口から小魚たちを吸収していく。

 「うめぇ、うめぇな。やっぱりイワシは最高だ!そう思わないかカツ実?」群れのカツ郎が旨そうにイワシを捕食している。

 「ええ、そうね。やっぱりイワシは美味しいわ。」やっぱりイワシは美味しいわ。この海水と一緒に口に入れることにより生じる魚達の尾ひれの振動がたまらなわ。

 「うめぇべ。」

 「そうだべ。」

 「やっぱ新鮮なイワシはうめ、うめ。」カツオ三兄弟もイワシに夢中である。

 やがてイワシを食べ尽くした私達カツオは、いつもの様に泳ぎだす。


 <カツ実の回想2 運命の出会い>

 そう、彼を見たのは群れの中で泳いでいる最中だったわ。

 宝石のように美しく輝いている魚眼!艶のある全身!!芸術品のように完成された尾ひれ!!何よりあの酸素を補給する様!!カツオには無い魅力が沢山詰まっていて私もう一目惚れ!!

 あぁ、彼とお話をしたい。彼と一緒に食事をしたい。こんな田舎者集団と違ってそう!!都会的めっちゃベリー・ベリーヤングな香りですわ!!

 そんな事を考えていたらその思いが伝わったのか彼が私の方に向かって泳いできたの。ドキーン☆彡もしかしてこれって運命!?

 「…あの、お嬢さん。」

 「はっ、はい!!」男らしい声で話しかけてきた私の心臓は破裂寸前!ドキのムネムネ!!

 「もしよろしかったら連絡先を教えていただけないでしょうか?」魚系アイドルのGYOMAPの一人「魚木 剛」の様に美しい顔立ちのマグロ様が私に近づいてきて心臓の鼓動はもうドッキドキ❤(ӦvӦ。)

 「えっ、ど、どうしてですか?」連絡先は欲しいけどここで貪っちゃ駄目よ!!カツ実。お淑やかに行くのよ。一回引くの。それが恋のテクニックよ!!

 「あなたの事を知りたいからじゃあ駄目ですか?」ドゥストライィク!私は早速GYOINNギョインのフルフルで連絡先を交換した。


 <カツ実の回想3 同族嫌悪>

 あれから数日。彼の名前はマグロンリー・ハート四世というらしい。なんて名前なの!顔だけでなく名前も格好いいなんて!?

 私達はあれから時々一緒にイワシ狩りをしたり、ナウい若魚類特有のデートを行ったりして、恋愛関係になるのにそう時間はかからなかったわ。

 私達はうまくいっていたのよ。時々話をして。時々会いに行く。だがそれは同種類の魚類ならの話。

 私はカツオ、彼はマグロ。似ているようで違う。異種魚なの。私達の姿を見て両者のマグロ・カツオ達は私達の交際に良い印象を持っていなかったわ。

 カツ郎もカツオ三兄弟もカツ野家もカツ屋もカツ江もカツ村もカツ太郎もカツオリオンも皆、皆私達の交際に反対しているのだ。

 「やっぱマグロとカツオは一緒になれねーよ。」

 「あやつらは違う存在。住む世界が違う。」

 「マジマグロとかアリエンティー。ゴルゴンゾーラなんですけどぉ!!」

 「あかんわー。やっぱりアカンわー。」皆が私に否定的なセリフを言ってくるが私はそれでもめげなかった。

 GYOINで彼と連絡をとり。初めて出会ったイワシタウンに来るように伝える。

 そうよ!皆が反対するなら二人で共に生きればいいのよ!!恋は常識より強いのだから!!

 待っててね、マグロンリー・ハート四世様。今向かうから!!!

カツ実は時速60kmの速度で目的の場所に泳ぐ。


 <カツ実の衝撃> 

 「やっぱり。俺達は一緒に生きることは出来ないんだ。」悔しそうな表情をしながらそう語るマグロンリー・ハート四世の瞳は、初めて出会った宝石のような輝きはなく悲しみに染まった瞳になっていた。

 「…どうして!?どうしてなの!?これから愛の力で私達は生きていくのよ!!」

 「それじゃあ駄目なんだ!!俺達二人じゃあ効率的な捕食が出来ないからいずれ死んでしまう。だからもう…。出会わないほうがいいんだ。」小さな声で呟くマグロンリー・ハート四世の声の中には諦めの感情と悲しみの感情が入り混じっていた。

 「…そう。終わりなのね。」

 「…ごめん。」

 「謝らなくていいのよ。一瞬の夢だったのよ。」私の瞳からは涙が零れ落ち、出会ったあの頃を想い出す。

 思えばこのイワシタウンで彼に話しかけられたのが始まりだったわね。イワシ捕食。魚類式デート。昨日の様に想い出すわ…。


 <別れの時間>

 私達はこの瞬間を楽しんだ。魚式ショッピングモール。魚式射的。こころの何処かで終わりが来ることもわかっていたけれど今この時だけはそんな事も忘れて楽しんでいた。だがイワシタウンの夜の鐘が私達を現実へと呼び戻す。

 『ゴーン!!ゴーン』鐘の音が鳴ると同時に賑わっていた町並みは静かになり店はシャッターを閉め始める。

 「…………。」私達は来てしまった時間から目を逸らすようにゆっくりと泳ぎ始める。

 外は真っ暗になり私達は何も言わず泳ぎ続ける。

 「…あれ。」突然マグロンリー・ハート四世が上を見上げながら呟いた。私も彼の向いている方向を見ると見たことのない光景がそこにはあった。

 一見すると巨大な赤い魚が泳いでいるのだが、よく見るとそれは巨大な魚なのではなく赤い小魚が群れをなして巨大な魚のような形を作り出しているのだ。

 私達はゆっくりと小魚の群れに近づく。奴らを捕食できれば二匹でも生活が出来る証明にもなるはずだ。

 近距離まで近づくと私達は泳ぐ速度を上げ小魚達を捕食し始めた。

 「嫌だ、死にたく…。」

 「助けて!!」

 「逃げろ。」数々の叫びなど気にもせずに私達は食べる。もしかしたら二匹だけでも生きられるのかもしれない。そう思った時にそれは起こった。

 私の目の前にいたマグロンリー・ハート四世が何かに引っ張られる様にとてつもない速度で上に向かって行った。

 「カツ実ぃぃ!!!」

 「マグロンリー・ハート四世!!」私の叫び虚しく彼の姿はすぐに見えなくなってしまった。


 <時は過ぎ>

 カツ実の瞳から出てくる涙がボロボロと海に混じっていく。マグロンリー・ハート四世が人間によって釣り上げられてしまったからだ。

 うぅ…。もうあの宝石のように美しく輝いている魚眼も、艶のある全身も、芸術品のように完成された尾ひれも、あの酸素を補給する様も見ることが出来ないのね。

 悲しみに毎日泣いているカツ実に対して誰もが同情した。目の前で恋人が釣られてしまうなんて…。きっと今頃は解体されて大トロ、中トロ、赤身と全国の寿司屋さんで食べられているのだろう。

 悲しみに泣いているカツ実が泣いていると何処からか声が聞こえ始める。

 「よ~す。お前の悲しみは伝わったぞ~。」 

 「…誰?あなたは誰なの?」脳に直接語りかけてくる声にカツ実は驚き問いかけると返事が帰ってきた。

 「私は神じゃよ。」

 「…えっ神様?」

 「そうじゃ神じゃ。お前が悲しんでいるのを見ててな、オジサンも涙が止まらんのよ。そこでお前に奴らに復讐をする力をあげようと思うんじゃ。」

 「力?」

 「そうじゃ、あいつら最近調子乗っているからなぁ、お前に授ける竜巻の力で奴らを恐怖のどん底に陥れるのじゃ。」神様がそう言った途端カツ実の全身から何か不思議な力が湧き出てきた。

 「なんだか力が湧き出てくるわ。」

 「そうじゃろ。今のお前は竜巻の力を使いながら地上界の人間を殺すマグロトルネードじゃ。さぁ行くんだマグロトルネードカツ実!!お前の力を見せてやれ。」神様の言葉を受け取ったカツ実は全身から溢れ出る力を使い自分の体から竜巻を発生させる。

 (`´)この力で奴らを解体して大トロ、中トロ、赤身にしてやるんだから!!

 こうして地上の世界で猛威を振るったマグロトルネードカツ実の出来事は、後に映画化されゴールデンフィッシュ賞を受賞した。

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