語り尽くされることのないもの。(後)
「あー、疲れた!」
「お疲れさん」
「ラファ、演奏どうでしたか!?」
「良かった」
「ほっとしました…」
「…」
「…」
「…あら、良いシーン」
「二人の世界ってか?」
「この子、頭撫でられるの好きだから…」
「ハッ! い、今の見てましたか!?」
「クク、ばっちりな」
「ラファさん、顔真っ赤」
「…見るな」
「ブフッ!」
「…笑うな」
「だ、だから睨むなって、お前の顔怖ぇんだよ」
「良い見世物だったわ」
「忘れてください…」
「それは無理な相談ね」
「そんな…」
「ホント、お前らも仲良いよな」
「あなたたちもじゃないの。ねえラファさん」
「知らん」
「ったくこいつは…あー、結構喋ったら喉乾いたな」
「はいこれ」
「それじゃねえよ。おいラファ」
「何だ」
「酒、買いに行くぞ」
「もうか?」
「いいから」
「あら、行くの?」
「おう、ちょっくら行ってくらあ」
「行ってらっしゃい。私は待ってるから」
「シャルはどうする」
「おい、野暮を言うなよ」
「野暮?」
「女には女の話があるの」
「何だそれは?」
「ラ、ラファは気にしなくていいんですよ!」
「? そうか」
「ほら、さっさと行くぞ」
「ああ」
***
「さて、ちょっと話しましょうか。せっかくウォンが気を利かせたんだし」
「そうですね!」
「で…」
「で?」
「ラファさんとはどうなの?」
「ど、どうって…! 別に、なんとも無いですよ?」
「ほうほう、その顔で言いますか」
「アウチ! ほっぺつねらないでください!」
「照れる顔もそそりますなあ」
「ミュ、ミュリーちゃんが変態に…!」
「何言ってるの」
「な、何って」
「世の中、皆、変態なのよ」
「その妙な凄みと説得力は何なんですか!?」
「いいから、黙って吐きなさい」
「それだとリアルに胃の内容物が吐き出されますよ!」
「吐け、吐け」
「嫌ですよ!」
「吐け、吐け、吐きなさい」
「段々強迫観念じみてきましたよ…」
「冗談はこのくらいにして」
「それにしては随分粘ったような…」
「シャルちゃんが素直じゃないからよ」
「もう、何が知りたいって言うんデスか…」
「うーん、色々あるけど」
「けど?」
「私としては、あのラファさんとシャルちゃんが、二人きりでどう過ごしてるのかが…」
「はあ」
「どうなの?」
「どうって…普通ですよ?」
「シャルちゃんの普通はかなり信用ならないわ」
「ひどい!」
「だって、普通じゃないもの」
「ミュリーちゃんだって…ボソボソ」
「ん? 何か言ったかしら?」
「言ってません! 言ってません!」
「よろしい」
「悪寒がしました…」
「まだ言う?」
「言いません!」
「はい。とにかく、具体的にどうなのよ」
「そう言われましても」
「ほら、例えばあのラファさんとどう意思の疎通をしてるかとか」
「イシのソツー? ですか?」
「…まず私の言葉伝わってる?」
「?」
「だって、ラファさん、無口じゃない」
「無口ですね」
「考えてること、分からないじゃない?」
「…そうですか? 全然そんなこと無いと思いますよ」
「ん? 実は結構会話するの?」
「会話? しないですよ?」
「え」
「会話はしないですね」
「つまり、シャルちゃんが一方的に?」
「そうですね」
「それで恋人同士って…良いのかしら」
「? 別に問題とかはありませんよ?」
「むしろ問題しかなさそうだわ」
「だって、ラファ、分かりやすいですし」
「はあ?」
「別に、喋らなくても、ほら、目とか見てたら、色々と駄々漏れですよ」
「…私には無口無表情の熊にしか見えないけど」
「無表情に見えて、実はそうでないところが良いんです!」
「そういうものかしら」
「それにですねえ」
「?」
「こう、いつも仏頂面な森の熊さんのラファが、時々、何かの拍子にポロッと微笑んだりすると…」
「すると?」
「こう、何か、可愛いんですよ! すごく! とても!」
「…かわいい」
「やっぱり、良いですよねえ。普段は厳しいのに、時折垣間見える柔らかい表情! 萌える!」
「ニコポか! 私にはあれが微笑むところが想像できない…」
「結構笑いますよ? ああ見えて」
「うーん…?」
「特に寝起きですね」
「…ねおき」
「あ、別に変なことはしてないですよ! やだなあミュリーちゃんたら。ただ一緒に寝るだけです!」
「いや、確かにラファさんにそっち方面の度胸とかは無さそうだけど」
「全然無いですね」
「恋人にこうも断言されるラファさんも哀れだわ…」
「と、とにかく! 寝起きはやっぱりリラックスしてるみたいで」
「それで?」
「無防備なのか、思いっきり、こう、へにゃあ…と笑ったりして…!」
「へにゃ…」
「締まりの無い笑顔の破壊力を舐めてましたよ私は!」
「…しまりのない」
「イカツイ分むしろギャップがヤバイっすよ! さらにいつも無表情な分余計に!」
「…そう」
「それに…」
「…うん?」
「普段は荒っぽい仕事してるラファが、私の前でだけは無防備になるって、何だか…」
「うん」
「こう、ちょっと、やっぱり、嬉しいじゃないですか」
「ああ…。それは分かる、かも」
「ま、あの笑顔は、私だけの特権ですがね! ぐへへ」
「ちょっと見てみたい気もするけど、私にはハードルが高いわ…」
「でもラファの表情の読み方くらいは、ウォンさんが教えてくれるんじゃありませんか?」
「む」
「おや?」
「あいつには聞きたくない」
「おやおや?」
「ウォンに借りは作りたくない」
「…ほうほうほーう?」
「何よ?」
「いやあ、ミュリーちゃん」
「だから何よ」
「ツンデレですなあ」
「はあ!?」
「こう、人前ではツンツンしているけど、いざそれが無くなると…」
「一体何の話かしら?」
「フフフ、シャルさんは、ちゃあんと知っておりますよ?」
「…何を?」
「聞きたいですか?」
「…言いなさい」
「仕方ないですねえ。フフフフフ」
「その笑い何だか腹立つわ」
「実は、隠れてウォンさんといつも文通してる、とか」
「…ぴゃあぁぁあ!?」
「貰った手紙は全部枕の下にそれは大事にしまってある、とか」
「ぶえゃあああぁあぁぁ」
「それにウォンさんが戻ってきたら、こっそり――むぐっ」
「言わないで、お願いだから言わないで!」
「むぐむぐ――ふう。全く、仲良きことは美しきことよのう」
「死にたい…」
「良いじゃないですか別に」
「って言うか何で知ってるのよ!」
「それは、ほら、この前遊びに行ったときに、たまたま」
「油断したわ…」
「ウォンさんもあんななりして、それにミュリーちゃんもその性格で文通だなんて、意外ですねえ。初々しいですねえ」
「…今一瞬私の性格に関する本音が垣間見えたけど」
「おおう、く、口が滑ったぜ!」
「…」
「…」
「…」
「…テヘペロ」
「もう遅いからね。ばっちり聞いたからね。後で覚えておきなさいね」
「し、しまった…」
「ふふふ、楽しみだわ」
「ひぃぃ」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…やっぱり恥ずかしいわね」
「話を振ったのはミュリーちゃんですよ…」
「それにこういう話って、話し出したらきりが無いものだし」
「恋人の惚気話ですか?」
「惚気てない!」
「ムキになってるところがまた…」
「あなたこそ惚気てたじゃない!」
「私はもう開き直ることにしました!」
「無駄に潔い…」
「ミュリーちゃんも、さっさと開き直ると良いですよ」
「それが難しいのよ」
「…」
「…」
「…」
「…疲れたわね」
「…そうですね」
「ふう、つっかれたなあ」
「今、戻った」
「ウォン!?」
「ラファ!?」
「ったく、酒高くなったなあ。…ん? 何だこの雰囲気」
「き、気のせいじゃない? 普通よ普通」
「そ、そうですよ! 何一つ変なところなど全くこれっぽっちも存在しませんよ?」
「シャル? どうした?」
「全然、金輪際おかしなところなどありませんですはい!」
「そうは見えないが…」
「ふうん…。ま、別にいいけどな。よし、今日は飲むぞお!」
「もう…、飲みすぎないでね」
「あたぼうよ」
「ラファもほどほどにしてくださいね」
「こいつ酔っ払ったら潰れちまうからな。いっつも帰るの大変なんだよな」
「…」
「そのくせお酒、結構好きですよね」
「…悪かったな」
「ま、今日は四人だし、大丈夫でしょ」
「そうですね」
「よし、せっかくだし、もっかい乾杯しましょうか」
「そうですね」
「おう」
「ああ」
「それじゃあ…久々の再会に」
「俺たちのこれからに」
「楽しい夜にっ」
「…繋がりに」
「「「「乾杯!」」」」
カンティーナ・バンド 左藤 @Sugar_Satoh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます