第4話

風が強くなってきた

その日は子供達は早く帰された


まだ昼過ぎなのに曇っていて風も強い

雨は降っていないが薄暗く夜の様だった


中学生の悪がき達はその雰囲気を楽しんでいた

3人が神社に集まり

本殿に上がりこみ

祭り用の酒をくすねて飲んでいた


雷の音が遠くに聞こえだした

「いよいよ来たぞ」

言ったと同時に雨が降り出した

夕方だが真っ暗だった


このままでは帰れなくなってしまう

「帰るか」

3人はまだ楽しみたかったが仕方ない

酒瓶を片付ける事も無く帰っていった


3人はそのまま帰らなかった

夜の8時になっても帰ってこない

3人の家族は近所の家にも頼み込み提灯を手に町中を探した

男達は事件の事もあり鉈や斧を持ち探した


捜索に参加した常吉は日本刀を手に

歩いてすぐの神社まで探しにいった

60を過ぎていたが体力には自信があった

「祭りの準備で誰か居るかもしれない」

そう思いながら神社までの道を走った

雨が降り足は泥だらけだった


神社へと続く階段が見えた

急いで階段を上がろうとした時だ

階段のすぐ横

暗闇に何かあるのだ

嫌な予感がした黒い物だった


提灯で照らすために

一回昇りかけた階段から

階段のわきに手をのばし提灯をやった


黒い

黒い顔だった

かがんで見て見た


頭が半分の厚みに潰れていた

顔は潰れて黒い血でまったく分らなかった


驚きよりも恐怖心だ

まだ近くにいるかもしれないのだ

俺も殺される

常吉は握っていた日本刀を思い出し

強く握り返し立ち上がった


その時階段の上から強い視線を感じた


常吉の顔を雨が伝う


恐る恐る腕を伸ばしながら視線を感じる先に目をやった


そこには雨に濡れながら大人の背丈ほどの灯篭を両腕で抱えた男がいた

丸坊主でボロボロの着物に下駄姿だった


常吉「不吉な!・・」

一言つぶやくと

提灯を投げ捨て一目散に灯篭を抱えた男に日本刀を抜きながら迫った


「あああ!・・」

常吉は大声を上げ鼓舞しながら力いっぱい斬り付けた

男は灯篭を落とした

同時に着物に包まれた腕も雨で濡れた階段に転げ落ちた

転げ落ちる灯篭をよけながら

さらに刀を振りかぶる

頭にまっすぐに振り落とした

骨に当たった感触が柄から両手に伝わる


雷が男の顔をはっきり現した

又三郎だ

血の気のうせた白い顔をしていた

常吉は仕留めたと思った


しかし又三郎は背中を向けると


「きぃいいいええええ」

と大きな声とも悲鳴とも言えない雄叫びを上げたと思うと

階段を人間とは思えない動きで昇って行く

3段も4段も飛ばしながら一瞬で上がって消えたのだ

雨が降り続いてた


この時を最後に又三郎は一切姿を見せていない


次の日残りの二人の中学生が

体をお互いに縄で結ばれた状態で川岸に上がった

8キロも流されていた


昼過ぎには雨は止んだ


又三郎が住んでいると言っていた廃家の捜索もされた

屋根さえ崩れ落ちて人の住む所ではなかった

骨と皮だけになった老人がボロボロの布団で寝たまま死んでいた

警察に呼ばれた校長は

挨拶にきた又三郎の祖父に間違いないと証言した


おわり





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風の又三郎 @doz

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