第4話

「ついたぞ、光弘」


店の隣のガソリンスタンドに車を停めるおやじ。おやじはいつも自分の敷地ではなくスタンドに車を停める。

このスタンドに車を停めるようになったいきさつが面白い。実はおやじの車好きは運転だけで洗車を全然しなかったらしいのだ。

車は好きなので当時の若者が好きそうな車を乗っていたようなのだが、如何せん洗車をしないおやじの車はいつも汚い。

それを見かねた若いスタンドの店長が我慢出来なくなって

「お願いですから洗わせてください」 と、お願いに来たのだそうだ。

それ以来洗車と給油が同時に行われるようになったようだ。

そんな店長には私が見えていないのだろうか、全く私が存在しないような振る舞いである。

見えないならその方が面倒がなくてよい。私たちは隣の店に向かった。

建物は家具屋は一階にあり、自宅は二階という造りである。 おやじはすぐさま配達の準備をして出掛けようとしていた。

通りかかったパトカーが


「おーい、シートベルトしてけよー」


とマイクでおやじに話し掛ける。おやじは手をあげて挨拶する。

なんて大らかな時代なんだ。そんなやり取りの後おやじは荷台の家具を縛っている紐を確かめてから出発した。

奥の事務所にはかあさんが残っている。応接用として小さなソファーと小さなテーブルがある小さい事務所だ。

私はここに置いてある漫画を読むのが好きだった。私はその事務所に入りソファーに腰掛けた。母さんは伝票整理をしながら言った。


「読んだら仕舞っておいてよ」


かあさんは私が事務所にくる用事は漫画しかないと思っているようだ。しかし今日は漫画に用は無い。

久々に会った母さんと少し話しがしたかった。


「かあさんもドライブ好きなんだね」

「何言ってるのよ。すぐ車酔いしちゃうから大嫌いよ」

「えっ嫌いだったの!」


これは初耳でかなりの衝撃を受けた。いつも三人でドライブをしていたのだから当然ドライブは好きなものだと思っていた。


「ひろが、どうしてもって言うからいつも一緒に行くんじゃないの。ひろとお父さんとのドライブは好き。だから行くの。」


そうだったのか。そう言ったかは覚えていないのだが、三人でのドライブはたしかに楽しかった。私が頼んだことだったのか。

そういえば娘とのドライブはあるが、ママも一緒にドライブしたのはどれくらい前だったろう。相当前のような気がする。


ママも私とのドライブが好きだろうか。 今度、ママも誘ってみようかな……


ママもドライブに誘おうと思った瞬間、私は現実の世界に引き戻された。

そこは旧帯広空港だった。ちょうど見終わって歩き始めたあたり。娘は次はどこに行くかを私に話している。


「ねえパパ。ねえったら」


そう言われて娘を見た。娘は話しを聞いていない私に怒っているようである。


「あ、ごめんごめん」


娘に謝ってそのまま話しを続けた。


「ありさ、次は家に戻ろうか」

「えー、もう戻るの」

「うん、そしてママ誘って、三人でまたここに来ないか。ママにも教えてあげたいんだ。パパの小さな時の思い出を」

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帯広空港 @sarirari

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