エント村の冒険者たち

「この時期のメスを守るオスシカと戦って勝ち、ゴブリン2体に勝って、ゴブリンの集団から逃げ遂せた。戦果だけ見ても既にブロンズクラスだな。」


「確か今回が初戦闘ですぜ、旦那」


「両方ともルナさまが魔法でやったらしいけど、実際に武器を交えたのはナオヤなんだろ?」


「しかも鉈と短剣の二刀流とかやったらしいな。二刀流とかいきなりできないよな?」


「ただの学生じゃない、という事か」


ここはエント村の総合ギルド、その一角にある食事スペース。


4人の大人、ギルドメンバーが一つのテーブルに集まり、酒を飲んでいた。


ベテランギルドメンバーであるノランをはじめ、このギルドでよくいる3人組、と言う組み合わせだ。


ノランは普段から1人で依頼をこなしており、今日も森の奥に進み、イノシシ討伐と薬草採取を終わらせて酒を飲んでいる。


イノシシの討伐依頼の報酬は銅貨10枚、薬草採取依頼は安価なものではなく、特殊なポーション用のモノだった為、銅貨20枚、と合計銅貨30枚の稼ぎである。


この金額はブロンズランクでも上位のチームと同額の稼ぎだ。


数人と同じだけの実力を持った彼のランクはアイアン。


この村、いや近郊の村まで含めても、上位の実力があるギルドメンバー、それがノランである。


そして、同じテーブルに着く3人組も普段からチームを組んでいる者たちで、全員ブロンズとはいえ、あともう少しでアイアンになるぐらいの実力がある。


他に数人この村にもメンバーが在籍しているが、彼らはまだブロンズになったばかりの者やちょっと経験をつんだ程度でしかない。


そう、このテーブルに居る4人は、この村最高戦力とも言える人たちなのだ。


その4人が酒の肴に話しているのは最近メンバーとなった2人組、厳密には1人と1匹の珍しい組み合わせチームの事。


あの2人は話題に乏しい辺境のこの村で、現在一番ホットな情報提供者と言える。


「実際どうなんでしょうね?ノランさんは聞いてませんか?」


「まあ、隻眼のやろうから助けた、と言っても閃光弾で目暗ましをした隙にだが、それで慕われてそうではあるな。でも、それだけだ。親しい訳じゃないから聞いてもはぐらかされるな」


「うーん、ノランさんでそれじゃあ判らないか。プルーフの目でその辺まで見れたら簡単なんだけどな」


「馬鹿言うなよ。そんな事になったら俺たち全員も情報が筒抜けじゃないか」


「確かにそんな事になったら、俺、東方諸国に逃げるな、間違いなく!」


「お前、どんなけ悪行重ねてるんだよ!?」


「俺も、いや、全員嫌だろうよ。その辺も神様たちも分かってくれててあれだけしか情報をださないんだろ」


「まあ、そうですね。ああ、そうそう。ガキどもに聞いたんですが、ナオヤの持ってる鉈と短剣がかなりの業物らしいですぜ」


「へえ、どれほどなんだ?」


「なんでもあの鉈、石も斬れるらしくてよ、ナオヤのやつガキどもの前で拳ほどの石を真っ二つにしたらしい。えらく興奮して聞かせてくれたよ」


「はあ?いや、まあ、かなり力が強ければ可能か。でもそんなことしたら鉈の刃が欠けるだろ、確実に」


「それが一切欠けてなかったそうだぜ。あとナイフも深々と木に突き刺さったそうだ」


「マジかよ!?それ魔剣クラスの性能じゃないか!」


「ちゃんと見たわけじゃないが、ナオヤの鉈と短剣には魔紋は刻まれてなかった。よっぽどの鍛冶師が打った一品なんだろうよ」


「魔剣と同等の武具を作る鍛冶師って、この国だと鍛冶神の加護持ちと噂の王族専属鍛冶師だけだよな?」


「そんなすごい装備を持ってたナオヤって、マジ何者なんだよ?」


「会話できる兎であるルナさまも大概だけど、ナオヤもかなり謎だよな。あ、ルナさまは仕方ないよな、だってルナさまだし」


「ああ、ルナさまは仕方ない。だってルナさまだからな」


「おい、お前らルナだから当然みたいな流れを変に思わないのか?」


「え?そういうノランさんが変でしょ、絶対」


「「そうだな。ルナさまを呼び捨てとか、変ですよ」」


「おい!?」


かなり酒が回ってきているようで、彼らの思考がおかしな方向に向かっている。


いや、酒がなくとも彼ら、ノランと今ここにはいないナオヤ以外の村人がみんな同じような感じだ。


ナオヤとルナがこの村へ辿り着いてから、まだ1週間ほどしか経過していないのにこのありさまだった。




「ふう、まあ、ナオヤもアレなのは分かったとして、問題はゴブリンだな」


「ですね。あの辺りで集団のゴブリンと遭遇とかちょっと異常かな」


「ちょっと前、先月にゴブリンの集落を何ヵ所かつぶしてるしな。それを考えると異常なペースで増えてる」


「それもあるが連携をしてくるゴブリンだ。そこまでの練度を短期間に習得してるってのが気になる」


「この村だけの話なんですかね、こんな事」


「どういう事だ?」


「ああ、ほら。90年ほど前も似たような事が各地で同時に起きたらしいじゃないか」


「まさか、魔王出現の兆候といいたいのか?」


「でも国や女神教も魔王出現を発表してないんだぜ?」


「可能性だ、可能性。でも、ノランさんが気になると言うぐらいだし、町の方にも問い合わせてみましょうか?」


「そこまで考えての事じゃないが、気になるのは確かだ。よし、そうだな。ナオヤたちが持て来た角の納品の事もあるし、ちょっと行ってきてくれるか?」


「解りました。おい、お前らもいいよな?」


「「おう」」


「良し、だったら今日は俺のおごりだ。じゃんじゃん飲んでくれ」


「「「さすがノランさん解ってる!そこに痺れる憧れる!」」」




「魔王出現の兆候と同時期に現れた白い獣を連れた来訪者か。まるで勇者みたいな話だな。まあ、あいつの場合は従者だが」

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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~ ゆうき @yuuki02

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