第6話 本当は…

麗華とは殆ど話も出来なかった。奏美は俯きながら言った。

「ごめん。ついむきになって…。あいつが部活にあまり来なくなった理由は私が一番解っているつもりでいるけど。それって私のせいじゃないし…」

私は、うん。と言ってそれ以上は何も言わなかった。

何でこうなるのかなって。考えてもわからない。たくさんいる人間をまとめるってこんなにも難しい事なんだなって。どうしたらいいかなんてわからない。わからないことだらけ。

「あとホルンの大川だな。」

コダーイが言った。

「葉音は確か、家庭の事情で…だっけ?」

奏美が確認した。

「うん、そうらしいよ。これは難しいね…」

私はそう言い、葉音の教室までやって来た。

「葉音?帰り際にごめんね。」

声を掛けるとこちらに向き直って口を開いた。

「…優季、奏美、宏大…。どうしたの、みんな揃って。」

葉音は不安そうに私を見つめていた。

「あのね、今、部活に来てない人がいる事に関して、新しく赴任してきた前田先生が怒っててね…」

私が言い掛けると、葉音は少し驚いた様子で遮った。

「えっ!?前田先生って理事長の?」

「そうだよ…。」

言えない。さっきまでは言えてたのに。戻って来て欲しいのに。私は怖くなってしまった。戻って来て欲しいといくら言っても、中々そう上手い具合にはいかない。私たちはそう言うのは簡単だけれど、その子たちにはその子たちの事情が有ってこうなってるから、無理に言ったら可哀想とか、怒られるのではないかと、私は思っている。

「優季…?」

奏美が私の意識を確かめるように声を掛けた。はっとして葉音を見やると、葉音は深呼吸をした。

「私もね、本当は吹奏楽したい。吹奏楽部にいたいんだよ…」

葉音は俯きながら、言葉をゆっくりと吐き出した。

「それならどうし、…」

コダーイが言い掛けると、葉音はそのまま続けた。

「どんなにそう思っていても、お母さんが許してくれなくて…。今までは家庭の事情で通してちゃんとみんなに話さなかった、というか話せなかった。お母さんが前任の先生にだけは言ったらしいけど…」

「じゃあこっそりとでも仲のいいやつに言えば良かったんじゃないのかよ。」

コダーイが久しく真面目な顔つきになっている。

まるでゲネラルパウゼの指示がなされたかのような空気になる。

すると、段々と葉音の目は潤み始めた。

「言えるわけないじゃん!あんたのいる部活は下手くそだからって、そう言われたんだもん。そんなこと、みんなに言えるわけないじゃん!言えないよ…」

コダーイは黙り込んでしまった。そして再び、その場の空気はゲネラルパウゼの指示を受けた。

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かけがえのない音楽 下川科文 @minasan

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