第5話 弾き合う二人

私たちがまずやって来たのはサックスの麗華のところ。本人から聞いたわけではないが、今はバイトで忙しい大学生のお姉さんと訳あって2人で暮らしているようでなかなか部活に来ない。放課後の教室に入っていくと、麗華が座っていた。

「なに?今日もこの後お姉ちゃんバイトで、帰って家の事しないといけないから早めにお願いね。」

窓の向こうを見ながら呟く。

「うん。分かってる。」

今日は説得しにきたんだ。穏やかに…。私は奏美と席に腰を下ろした。コダーイは格好つけて壁に寄り掛かっている。

私はそっと切り出した。

「あのね麗華、私たちどうしてもちゃんとみんなでコンクールに出たいの。前田先生が人が揃ってない事に怒って、今は停部の状態なの…」

麗華がはっとしたようにこちらを見やった。

「停部…?」

麗華は他人のニュースでも聞いたかのような口調で言った。すると奏美が間髪いれずに言った。

「あんたさ、わかってんの?来ない事でどんだけ迷惑掛かってるか。」

奏美が言葉を放ち、時間が僅かに経ち、場の空気は徐々に重くなっていく。

「だってさ、わたしだけじゃないじゃん。そんなの。あんただって、知ってるでしょ?何でわたしにだけそんなふうに言うわけ?」

やってしまった。実はこの2人、部の幹部を争った仲で、結果は今の通り。もともと両方とも意地っ張りでずっと磁石の同極のように弾き合っている。

「もういい。時間だから帰るわ…」

そう言うと、麗華は教室を後にして去って行った。

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