ぼくは理解を放棄する

 うん、ぼくは何をしているんだろうか。

 その日の放課後、何となく足が屋上に向いてしまっていた。

 そこでは既に魔王様以外の三人がたむろしていた。相変わらずソラをいじりまわしているようだ。……屋上が住処なのだろうか、この猫……。

「おや四条。早速来てくれたか」

 木藤君が何だか本当に嬉しそうにあっけらかんとした笑顔で迎えてくれたので何だかこそばゆくなる。

「その猫屋上に住んでるの?」

 その照れくささがなるべく表に出ないように、何気なさそうな調子で誰にともなく問いかけた。

「ソラ? うん、えっとね……もともといたんだかどうだかは知らないけど、魔王様が餌付けしちゃってすごくよく出現するようになったよ」

 朝倉さんが答えてくれた。……餌付けって……。

「関谷食欲欠損症だと思うぜ。なぁ?」

「ん……?」

 木藤君がぼくからすれば突拍子もないことを口にする。当たり前だ。ぼくは彼らとの交流が圧倒的に少ない。彼にしてみれば何らかの脈絡を持っている事項なのだろう(木藤君に話の流れをぶった切る趣味があるというのなら別だが)。実際他の二人も何だか苦笑気味のようだし、彼らの中に何か共通の理解があるようだった。

 ぼくがきょとんとした表情をしていたためだろう。三人は口々に説明を加えてくれた。

「あの人おかしいのよ。『食べるの面倒』とかいう意味不明なことを平気で主張するんだから」

「んで自分の昼ごはんその辺の猫とかにほいほいあげちゃうんだよねー。だからここによく来るのはソラだけじゃないんだよ。他の猫だって来るし鳩だって来るし……」

「まー、そん中でも俺らになついてくれてんのはソラくらいかな。ほかは餌だけもらってくけど触らせたりとかしてくれん」

 …………いや…………なついてくれてるとかそういう問題じゃなくて……。

「食べるのが……面倒?」

 本気で大変不可解な主張である。

「何かねー、箸の持ち方とかは模範的なものにきちんと倣おうとこだわってるくせにね、その箸で食料をつまむまでが面倒とか。あと口に運ぶまでも面倒って言ってたし、噛むのも飲むのも面倒なんだってさ。要するに一連の動作全部だねっ」

 ……………ぼくには理解に苦しむことしかできない。

 ちょっと待て。この学校敷地内で妙に野良猫よく見る気がするのだがもしかして全部魔王様のせいだったりするのか? ……いやさすがに全部ってことはないだろう全部ってことは……。

「そういえば最近ついに『猫に餌をやるべからず』みたいなプラカードが中庭とかに出現したわよね。まさか餌付け会場が屋上だとはせんせー方も思ってないんでしょうねぇ」

 …………ええと……そりゃやっぱ魔王様のおかげで猫増加中ってことなんだろうか……。

「にしてもさ、なんで学校猫がよりつくの嫌がるのかなっ?」

「あれじゃねぇ? フンでちらかるとか」

「猫の大群がうようよしてたら見た目もよろしくない……のかしら?」

「えー、猫のフンとか……どうせ校内掃除すんの生徒私たちなんだしさー。猫いっぱいいたところで何かほのぼのしてていいじゃないねぇ~」

「どーなんだろーなー。まー所詮あれだろ、体裁ってやつで全部片付けられるんだ、きっと」

 ……いや野良猫大発生って結構面倒だぞ?

「…………フンもだけどさ、くそやかましく鳴きまくったりそのへんのものでガリガリ爪とぎまくったり、色々と面倒だよ? それが大量増殖とかしてくれた日にはちょっとなぁ……」

「あー……確かになぁ……」

 ぼくの意見に木藤君は納得した様子。吉村さんと朝倉さんもあー、なんて言ってる。

「かわいいかわいいってだけで何も考えずに集まらせてたら駆除対象にさせちゃう、っかぁ……うーん、魔王様にやめさせたほうがいいのかなー」

 朝倉さんが困った様子で言う。

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ぼくとソラと魔王様 千里亭希遊 @syl8pb313

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