狂信者
私はクリミナルヘブンの街を歩いていた。
昨日ジョンとアーサーの仕事の手伝いをしていた時に見かけた教会に足を運ぶためだ。
少し離れた丘の上に建つ、少しこぢんまりとした教会だが、近くに来ると意外に綺麗な建物だった。
木製の扉は両開きの少し大きな装飾の付いたもの。
故郷の教会程華美では無いけれど、これも趣がある。
「でもなんで所々補修してあるのかしら」
扉を開きながらつい疑問を口にしてしまった。
誰に向けたわけでもないその独り言に答える声が聞こえた。
「うふふ、細かい事は気にしてはいけませんよ」
掃除をしていたシスターが声の主だった。
「あの、お邪魔します」
うわ、すっごい綺麗な女性だ…
あとおっぱいがおっきい。
私もあれくらいに…いいえシャーロット弱気はダメよ自らの血を信じるの!
私のおっぱいは可能性の塊よ。
「あの……どうしたらそんなにおっきくなるんですか!」
ああ、私そうじゃない、何を口走ってるの本来言うべきは少しお祈りさせて下さいのはずよ!
「おっきく?ああ、規則正しい生活と健康的な食事、それと信仰です。哀れな子羊よ神を信じなさい全てはそれからです。貴女お名前は?」
恥ずかしさで爆発しそうな心を抑え私は名乗った。
「シャーロットです、ええとシスター様お名前を伺っても」
にっこり微笑んでシスターも名乗る。
「わたくしはシスタースリジェ、シャーロットさん今日はどの様なご用件で?」
本来の要件を忘れていた。
「あの少しお祈りさせて下さい」
やった言えた!おっぱいにもめげなかった。
「ああ、遂に我が聖教会に信者が現れました!神よ感謝します。さあどうぞ何時間でも祈っていって下さい」
凄い勢いで祭壇まで走って行って祈り始めた、変な人なのだろうか、いや信仰心故だと解釈しておこう。
「じゃあ、少しお邪魔します」
祭壇の前に膝を付き祈り始めると、後ろでゴソゴソしている、てゆうかソワソワしてる。
「あの……」
振り向いて声をかけると
「ひゃい………こほん、はい、なんでしょうシャーロットさん」
「ちょっと集中したいというか、落ち着いて欲しいというか」
ていうか、そのテーブルは一体?
「あ、あの初めての信者の方なので一緒にお茶しながら神について語り合おうかと」
「重いわ!」
その時、外から車の音がした。
「シャーロットさん、不信心な愚か者が現れた様です。どこかに隠れてください」
私は素早く椅子の後ろに隠れた。
シスタースリジェが袖から筒みたいな物を取り出す。
あれは銃だ、なんでシスターが銃なんて持ってるの。
ドアが開いた瞬間教会内に銃声が響く。
ドアに補修後が有ったのはこのせいなのね…
「おら、この糞尼よくもうちの射程を撃ち殺してくれたなぁ!そのデッカイ乳ぶるんぶるんさせて善がり狂う様にしてやろうかあぁ?」
外から男の下品な声が聞こえる。
シスタースリジェがドアを潜り外へ出ていった。
続いて銃声銃声、また銃声。
何事もなかったようにシスターが教会内に戻ってくる。
白い襟にはポツポツと赤い染みが出来ていた。
「うふふ、ごめんなさいね騒がしくて。近頃不信心な輩が押し掛けて来るのですよああして」
内心冷や汗ダラダラだった。
今人を殺してきたとは思えない、なんら悪意も恐怖も殺意も感じられない聖母の笑顔。
この人……怖い!
でもアーサーもそんな感じな事を考えたらこの街では普通なのかもとも思う。
でもやっぱ普通じゃないよなぁ。
「えっと……シスタースリジェはこんな事をいつも?」
おっかなびっくり聞いてみた。
反応は意外なものだった。
「信仰心の無い悪の権化を断罪するのが聖教会のシスターの職務です。悪は滅びねばなりません、罪には罰を、悪には死を」
私の心に訪れた感情はまず、安堵だった。
そして、疑問だ。
「信仰心のある悪はどうするのでしょう」
シスタースリジェは少し逡巡した末。
「そうですね、信仰心のあるものは罪など犯しません。わたくしはそう信じています」
こういうのを狂信者というのだろう。
「驚かせてしまいましたかね、うふふ」
「はい……まああの……はい」
天使と悪魔の2面性、アンチノミーを背負う女神。
「この街では信者が少ないのです。これは教会に足を運んでもらう為の布教活動でもあるのですよ」
心の底から狂っている、いや彼女はこれで正常なのだ多分。
すべてを信仰に捧げ、神へ縋るしかない状況に他人を追い込む狂信者なのだ、なんと迷惑な。
「さて、お茶にしましょうか。美味しい紅茶があるのですよ」
凄い分からないですね。
基本良い人なんだろうと無理矢理納得しておく。
ひとしきり談笑し、帰ろうとすると
「お家まで送りますよ、この街は物騒ですからね」
確かにシスタースリジェが側にいれば安心かもしれない。
「いえ、そこまでして貰わなくても大丈夫ですよ、一人で帰れますから」
しかしシスタースリジェは断固として付いて来るらしい。
この人とあの二人を会わせて平気なのだろうか。
正直ダメな気しかしない。
結局店の前まで帰ってきてしまった。
「あら、貴女このお店の娘なの?」
「はい、レドリック商店が私の家です」
シスタースリジェは怪訝な顔をしている。
「あの店長さんこんな大きな娘さんが居るようには見えませんわ」
既に知り合いのようだ、それでジョンもアーサーも死んでないんだから大丈夫なのか?
「はい、困っていた私をジョンとアーサーが助けてくれたんです、それで私は恩返しにと二人を手伝っています」
よし、これで何も嘘は言っていないし、美談にしか聞こえないはずだ。
「ああ、なんと素晴らしい愛なのでしょう」
シスタースリジェは感動して祈りを捧げ始めた、お店の前ではやめて欲しい。
ガチャっと店の扉が開いてアーサーが現れた。
普段はぬぼっとしているアーサーがシスターを見た瞬間警戒度をMAXまで上げた。
「おい、デカ乳㊛何しに来た?うちの娘になんか用か?この店はてめぇみたいな物乞いの来るところじゃねぇ、金がねぇならとっとと失せろ」
「ちょっとアーサーこの人は私を送ってくれただけなの!だからやめて」
アーサーが此方に視線を向けずに答える。
「シャーロット、悪いがこいつだけはダメだ」
アーサーのこの態度はおかしい。
まるで、過去に因縁があるかの様な猛り方だ。
「あらあら、アーサーさんいや"ムッシュドパリ"と呼んだほうが宜しくて?」
ギリっとアーサーの、歯が鳴る。
「その名前を呼んだからには、首を置いてく覚悟があるって事で良いんだな、"ファナティック"」
「シャーロット、店に入ってろ」
いきなり声をかけられた私はそそくさと店に入る。
シャーロットは店に入ったか…
俺は背負った剣を抜き斬りかかろうと体重を落とす。
しかし、それを読んでいたかのように足元に散弾が散らばる。
横に跳んで回避するが数発足に食らったらしい。
痛ってぇ、これはバードショット!?
足止めの為に細かい弾かよ、でもこれじゃ俺を殺せないぜ。
「うあああ!!!」
気合とアドレナリンで痛みをふっ飛ばし、剣を抜き斬りかかる。
だが銃口がこちらを向く方が早かった。
放たれた銃弾は店の壁に穴を開けた。
今度はスラッグ弾だと……
この糞尼、違う種類の弾を込めてやがるのか…
バードショットで足が鈍った所にスラッグで止めかよ、こいつあの頃より凶悪化してやがる。
アハハ楽しい!楽しいぞ!
止められねぇ湧き上がっちまう。
次は2連続で4Bかよ、また弾が当たったか、このまま翻弄されてると削り殺されるな。
「随分込んだ手を使うじゃねぇかファナティック」
シスタースリジェがニヤリと笑う。
「ええ、ただ散弾詰め込んだだけじゃ貴方みたいな化物は断罪できませんから」
「化物とは酷いな、お前にだけは言われたくない」
シスタースリジェの笑顔が獰猛な物に変わる。
「未だに剣を使うような、時代錯誤の黴た頭に風穴空けて換気して差し上げますわ」
ジリジリとお互いに距離を詰めていく。
間合いは相手の方が広い、が懐に入れば俺の勝ちだ。
張り詰める緊張に、アーサーの首筋からも汗が流れる。
その緊張が、乱入者によって途切れた。
「もうやめて!!!アーサーも!シスタースリジェも!いい加減にして!!」
シャーロットだった。
二人の間に立ち塞がったシャーロットに、二人共手が出せない。
「どけよシャーロットそいつはここで殺しておいた方がいい」
シャーロットが凄まじい剣幕で俺に食って掛かる。
「ダメよ!許さないわ、どんな因縁があるのか知らないけど、でも二人が殺し合うなんて見てられるわけ無いじゃない!」
これは梃子でも動かなそうだな。
「今日は我が聖教会の信者に免じてわたくしが引きましょう、再戦を楽しみにしていますよムッシュドパリ」
シスタースリジェが、踵を返し教会の方に立ち去る。
「二度と来んな狂信者め!シャーロット塩撒け!塩!」
シャーロットが何か聞きたそうにしている。
何かは聞かなくてもわかる。
「どうしたシャーロット、何が聞きたい?」
「アーサーはシスタースリジェとどういう関係なの?」
やっぱりそれだよなぁ。
「コーヒー淹れろ、ちょっと長い話になる」
俺は店内を通りリビングの椅子に腰を下ろす。
「あれは7年前ヨーロッパでの話だ」
クリミナルヘブン @kanata7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クリミナルヘブンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます