第17話 幸せを運ぶ男の子


春香たちが待ち合わせ場所に向かっていると、5歳ぐらいの男の子が一人でキョロキョロとしている。二人は少し考えてから、男の子に近づいた。

「どうしたのかな?」

 春香はしゃがんで、微笑みながら男の子に話しかけた。

「パパとお兄ちゃんがいなくなっちゃったの」

 男の子は今にも泣き出しそうな顔をしている。春香は陽菜と顔を見合わせた。陽菜が頷く。

「大丈夫。お姉ちゃんたちと一緒に探そうか」

 春香がそう言うと、男の子はこくんと頷いた。

「お姉ちゃん、春香って言うんだ。こっちのお姉ちゃんは、陽菜。お名前、教えてくれるかな?」

「ひろ」

「ひろ君。カッコいい名前だね」

 ひろは嬉しそうに笑った。

「ひろ君はお父さんたちと何処まで一緒だったのかな?」

「あっち」

 ひろは春香たちが歩いてきた方と反対方向を指さした。

「ちょっと、田島に電話してくるわ」

 時間がかかると思った陽菜は田島に電話を掛けに行った。


「先に行って、場所取っておいてくれるそうよ。来る時に連絡してって」

「ありがとう」

 田島君たちに後でお礼を言わないと。

「お姉ちゃんたちをさっきいた場所に連れて行ってくれるかな?」

 春香がひろに言った。ひろ君のお父さんたちが、そこで探しているかもしれない。

「うん!」

 ひろを真ん中にして、三人で手をつなぐ。

「パパたちは、どんな服を着てたのかな?」

 陽菜が聞いた。

「えーっとねぇ……。パパは青い服、お兄ちゃんは黒と白のしましまの服を着てたよ」

「そうなんだ。お兄ちゃんは何歳?」

「高校生!」

「へぇー! お姉ちゃんたちと一緒ね。ひろ君は、お兄ちゃん好き?」

「うん! 大好き。とーっても、優しいんだ!」

 ひろは太陽のように明るい笑顔で言った。本当に、お兄ちゃんのことが好きなんだろうな。陽菜、小さい子と話すのうまいよね。さすが、お姉ちゃん。

「ひろー! いたら返事してくれ!」

「ひろー!」

 歩いていると、ひろを呼ぶ声がした。

この声、聞いたことがあるような……。

「あっ! パパとお兄ちゃんの声だ」

「ひろ君のお父さん! ひろ君、ここにいますよ!」

 駆けている音が近づいてくる。

「ひろ! 心配したんだぞ」

「お父さんっ!」

 ひろは勢いよく父に抱きつく。ひろの父の隣にいたのは、やはり見覚えのある顔だった。

「倉科くん?」

「あら、倉科じゃない」

「島崎、長谷川……」

 春香と奏多は驚いた顔をしている。

「ひろがご迷惑をおかけしました。ありがとうございます。ほら、ひろもお姉さんたちに、ありがとうは?」

「春香ちゃん、陽菜ちゃん。ありがとう」

「どういたしまして」

「……、奏多君の知り合いかい?」

 固まっている奏多を見て、ひろの父は少し戸惑ったように聞いた。

「クラスメイト。二人とも、ありがとう」

 奏多は春香たちに頭を下げる。

「どういたしまして。倉科君、弟いたんだ」

「ううん、ひろは従弟だよ」

 そう言えば、ひろ君のお父さん、奏多くんって言ってたっけ。息子に「くん」つけるお父さんはそんなにいないよね。

「優太に聞いたよ。せっかく誘ってくれたのにごめんね。優太は?」

「前原と一緒にいるわ。花火が始まる前に分かれて食べ物を買っていたの」

 奏多は陽菜の話を聞いて、そうなんだと言った。

「奏多君、誘われてたの? こっちは断ってくれても良かったのに」

「いやいや。ひろ との約束が先だったし。なー」

「うん!」

 うん。ひろ君の言う通り、倉科君は優しいお兄ちゃんだよ。

「陽菜、そろそろ行こうか」

 春香は携帯を見て言った。花火が始まるまで、あと10分。田島君たちを待たせてるし、行かないとね。

「そうね。行こうか。倉科、またね」

 少し遅れて、陽菜は返事をした。

「倉科君、また学校で。ひろ君も」

 春香はひろにバイバイっと手を振る。

「うん。二人とも学校で」

「本当にありがとうございました」

 ひろがバイバーイと二人に手を振る。春香と陽菜は、ひろにもう一度手を振ってから歩き出した。


 少しだけだったけど、倉科君に会えてよかった。

もう少し……、って欲張っちゃだめだめ! 

明日から毎日のように会えるし。

私服姿の倉科君、新鮮だったな……。


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「本」からはじまる物語 芹澤奈々実 @serizawa0326

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