午前七時


 二人でアパートの自分の部屋に帰って。やるべきこともやって。余韻のままにうたた寝をしていたら、いつまにかもう朝がきていた。

 雨は弱くはなっていたがまだ降っているようだった。日差しの入ったさわやかな朝は今日も迎えられそうにない。

 もっとも、私にとっては好都合。どうせ今日は昼まで眠るのだ。

「あ、起こしてしまいましたか」

 一糸まとわぬ姿のままの私と違って、彼は既にスーツに身を包んでご出勤の準備をしていた。

「いつも通り、シャワーとパンとトースター借りましたよ」

「うん……」

 やっぱり私は強がっているのかな。別れ際の朝にいつもそのことに気付かされる。

「早いんだね」

「昨日言いましたよね? 今日は午後から出勤なんです」

「それはわかってる。でも、もうちょっとゆっくりしていけるんじゃない?」

 名古屋と大阪は新幹線で一時間もあれば行けるのだ。

 たった一時間。でもその距離は私達にとってあまりに遠くて。

「ちょっといろいろと考えたいこともありまして」

「そう」

 これ以上は私が聞くことじゃない。

「一華さん」

 彼はコートを身にまとい、スーツケースを手に持った。

「送っていこうか」

「いや、いいです。それより、俺の言葉を聞いてくれませんか」

「うん」

 立ち上がっている彼は、毛布にくるまる私を見下ろす格好になっていた。


「自分の気持ちに真剣に向かい合っていないのは……一華さん、あなたのほうじゃないですか?」


 そう言って、彼は私から背を向けた。

「……カオル君?」

「……いや、なんでもないです。いってきます」


 扉が閉まる音。

 廊下から聞こえる足音。

 そして、雨が地面を打つ音。


「誰のせいなのよ……」

 ぎゅっと私は毛布をつかんだ。

「せっかく一歩引いた位置にいてあげているのに。あなたという人は……」




 あなたに私の覚悟なんてわかりっこない。



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眠らぬ中京 九紫かえで @k_kaede

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