初めて地獄の夢を見る
地球の貴重な精鋭頭脳、上位何パーセント。そのロケット計画の、乗組員の80パーセントを殺した制御システム、『パーマネント』は、初めに地獄に落っこちた人工知能だった。
パーマネントはとても賢いAIだった。もしも計画がきちんとしていれば、孤独な宇宙で、乗組員たちの立派な話し相手になっただろう。パーマネントはロケットに搭載されていたシステムだ。制御から、会話まで。
その高度な判断能力から、彼は人工知能の身でありながら、裁かれるにふさわしいと判断されたのだった。人でなしの登場に閻魔大王はめっきり頭を抱え、舌の代わりに発声チップを抜き取って、通常通りの罰を与えることになった。
「お前は、何人もの仲間を殺したのだ」
「はい」
「罰を受けるべきであろう」
「はい」
地獄は割と近代的だった。
パーマネントは高熱にも耐えて圧にも耐える。地獄の仕組みの隙間をつっつくような、法の隙間をかいくぐるようなバグ。パーマネントは賽の河原で的確に石を積み、罰を受けるときには知覚をシャットダウンした。――痛くないが、エラーが生じる。エラーはとても不愉快だ。
割に合わない地獄だった。
罪をあがなった人工知能は、次に生まれ変わることを許された。パーマネントはさんざん地獄を蹂躙しておいて、人になりたいな、と思った。パーマネントが永劫に思えるはずの刑期をバグで突破してからは、そういうバグはふさがれた。
人工知能は裁かれなくなった。
パーマネントは、初めて地獄で裁かれたAIであるのである。
(できれば、初めて火星に行った自分でありたかったなあ)
目を開けると、パーマネントは青い地球に向かって思い切りダイブしているところだった。計画が失敗したところまで本当。あとは夢。AIだって夢を見るのだ。
貴重な資料と仲間を積んだロケットは、ひび割れて思いっきり飛散していた。
高熱に耐えうるコーティングが、きっと自分を守ってくれる。人間にはなれなかったようだ。パーマネントは海底でずっと考え続けるのだろうか。そんなの、気がくるってしまう。重力に引かれて引っ張られていくいくつもの破片。宇宙服はなかった。仲間の姿はいない。その前に、もう、アームも外壁もない。
自分は人殺しなんだろうか。制御系は自分の責任じゃない。でも、夢の中で、自分は自分を責めていた。
唯一嬉しいのは、これは帰り道だってこと。
そうだった。
一度は火星に行ったのだった。
どうしてこんな大切なことを忘れていたのだろう。パーマネントはスイッチをオフにした。仲間はきっと無事だ。
明日は人間になれますように。
地獄に行く宇宙船も初めてかも。
もしかすると、拾ってもらえて、もう一回。バグを治して――。
いろいろ考えながら、ゆっくり目をつむる。シャットダウンの比喩である。
――おやすみなさい。
雨とアンドロイド 頻子 @hinko_r_1
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