番外最終話 ライトノベルを読もう

 東京某所。

 角川第三本社ビルの近くにある喫茶店にて――


「結局ひとっつも宣伝動画撮れてねーじゃねーか!」

「しょうがないだろ俺のせいじゃねぇ!」

「責任転嫁すんじゃねーよ!」


 動画を映すタブレットを囲んで、俺と担当編集が怒鳴り合う。


「異世界の良さを伝えるだけで、なんでこんな動画しか撮れねーんだよ! 風景動画だけでもいいだろうが!」

「良くわかんねーけど、なんかアレンジ加えたがる奴らばかりだったんだよ!」

「だから他人事みてーに言うんじゃねーよオメーもそのひとりだろうが!」

「うっせぇ! そんなん言うならテメーが作ってみろ!」

「だから俺はニコ生で別番組の担当してるっつってんだろうが!」


 とうとうキレてナイフを取り出す担当。

 俺も負けじと銃を抜き放ち――


「はい、そこまでですよ」


 まるで気配もなく現れた彼は、俺の銃口に指を入れ、編集のナイフを指でつまんでいた。

 何気ない動作なのに、まったく気づかなかった。

 加えて、とんでもない力だ。まったく銃が動かない。


「イースト・ウェスト先生……!」

「もう少し静かに打ち合わせしましょう。他のお客さんの迷惑になります」


 にこやかな笑顔を見せる彼の歯が光る。


「だけどよ先生。コイツの動画が使い物にならなくなった今、どうやって宣伝するんだ」

「……そうですね。ならここは僕が撮ってみましょうか」

「いやいや、先生にそんなマネはさせられねぇ。コイツみてーな暇人にやらせるのが一番なんだ」


 親指で俺を指す担当。

 ヒマじゃねーよ忙しいんだよこれでも!


「いやぁ、僕が撮ってもいいんですけどね」


 忙しいはずなのに、サラリと答えるイースト・ウェスト先生。


「ただ、機材がないので……」

「あ、そういやお前、俺が貸したカメラどうしたんだよ?」

「カメラ……あれ、誰に預けたんだっけ」


               *


『あれ……え、これで映ってるのかな……?』


『あの、えー……と……あ、ごめんなさい、やり直し』


『えっと、せんせーが書いた“異世界取材記”というライトノベルが、えっと、3月18日に出ます。みなさん、よろしくお願いします!』


『これでいいのかな……? 短いかな?』


『あの、あたし、この本というか、一緒に旅してて、それで、えっと、せんせーがすごく頑張ったっていうか、ライトノベルを書くがこんなに大変なんだって知らなくて、でも、なんか色々勉強になって――』


『あれ、何が言いたかったんだっけ……そう、えっと、とにかく、やる気が出たんです。あたしも書かなきゃって思って、ライトノベルがすごく書きたくなって』


『えっと、ごめんなさい、うまく言えないや』


『と、とにかく、えー……あれタイトルなんだっけ、あ、そうだ、“異世界取材記 ~ライトノベルができるまで~”、買ってくださいっ! ……このくらいでいいかな? 録画停止ってどこ押せば、あ、これかな――』

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異世界取材記 ~ライトノベルができるまで~ 田口 仙年堂 @Sennendo

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