番外第6話 最後の手段

「お願いします! もうベルゲルさんしかいないんです!」

「いや、しかし……!」


 困惑するベルゲルさんに、俺は土下座せんばかりの勢いで頼み込む。

 よく考えたら能力のある常識人って、異世界じゃこの人だけじゃねーか!

 この人を逃したら、もう動画を作れる人間は誰もいなくなってしまう。


「お願いします! お願いします!」

「むう……仕方ない」

「いいんですか!?」

「これでも魔王軍を預かる将たる身分。広報活動も仕事のうちだ。要は、我が国の魅力を他国に伝えるつもりでやればいいのだろう?」

「そうですそうです! PRはどの世界でも同じですよ!」

「分かった。私もできる限り資料を集めてみよう」


 やった!

 頭も良くて人格者のベルゲル将軍だったら大丈夫だ!

 きっと普通の宣伝動画を作ってくれるに違いない!


                 *


 暗雲が立ちこめる空。

 遠くの方では雷が落ちている。

 その下には朽ち果てた荒野。

 萎れた草と、動物の骨が転がる死の大地。


『いやぁ、思わずピクニックに出かけたくなるほど良い天気ですね。ここは“爛れた火傷跡平原”の東にある、動物たちの楽園です』


 ベルゲルさんのナレーション。

 落ち着いた優しい声が、視聴者の心を和ませる。


『今日はどんな動物が見られるでしょう――あっ、いましたいました』


 カメラの端に映る、一匹のウサギ。


『可愛いウサギさんですね。このように、この世界には愛らしい動物と豊かな自然によって美しい調和が保たれているのです。あ、ほら見てください』


 ウサギの視界の後ろを走る、牙を生やした巨大な爬虫類。


『あれは“クサレドクトカゲ”ですね。群れとはぐれたのでしょう。おっと、種族の違う動物が互いに見合っていますね。何か感じるところがあったのでしょう』


『おっと、ここでウサギさんが飛びかかる。長い耳でクサレドクトカゲの首を一刀両断です。まだ新鮮なうちに捕食しているようです』


『この“オーキッシュラビット”はディルアラン大陸でもっとも素早い暗殺者と呼ばれており、狩りのスピードは一番なんです』


『あはは、見てください。ウサギのおなかがパックリ割れて、中から巨大な牙が出てきました。自分より大きな動物を食べるための工夫ですね』


『いかがでしたか? この大陸に住む可愛い動物たち。みなさんも是非ふれあいに来てください。それでは”異世界取材記 ~ライトノベルができるまで~”、また次回のご視聴を楽しみにしております――』




「テーマは間違っていない……間違っていないが……!」

「ベルゲルさんの優しい声が逆にトラウマだよっ……!」

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