番外第5話 デキる男は宣伝も違う

『ハッハッハ! お困りのようですね先輩!』


 いきなり俺のスマホにかかってきたから誰かと思ったら。


「キノシタか? お前なんなんだよ一体!?」

『聞きましたよ! なんでもユーチューバーになるそうじゃないですか! いやー、それはそれは……プッ』

「おいテメェ何が言いたいんだゴルァ!?」

『いやいや失礼。ですが、ド素人の先輩にユーチューバーなんてできるんですか?』

「できねーから苦労してんだよ」


 この憎らしい男は、キノシタ。

 俺の後輩のラノベ作家であり、何度もアニメ化している大人気作家である。

 今は異世界で悠々自適に暮らしている――はずなのだが。


「けど、こうやって電話をかけてくるって事は、何かいいアイデアでもあるのか?」

『いえね、原稿書きたくなくて――じゃなくて、僕も勉強のためにカメラで色々撮ってみたんですよ。そしたら先輩好みの動画になったんで、参考に見てもらおうかと』

「マジか!? お前ヒマだな! 原稿書けよ!」

『たった今、作った動画に値段をつけたくなりましたね』

「いや何事も勉強だ! 勉強のためなら時間を割いてもしょうがないよな!」

『それじゃYouTubeに限定公開でアップしときますんで、URL送っておきますね』

「おう、助かるぜ!」



 オフィスの会議室のような狭い部屋。

 スーツを着たキノシタが組んだ両手をテーブルに載せている。


 ――異世界で仕事をする事について、何かこだわりはありましたか。


『いやぁ、特にありませんね。現実ではないどこかへ行きたかったんです。自分が今まで見た事がない、まったく新しい概念を入れたかったんです』


 ――結婚も、新しい概念?


『YesでありNoですね。結婚そのものは僕たちの世界でもできるでしょう? だけど異世界人と結婚、それも重婚をするのは日本の法律ではあり得ません。そこに何か新しいものを感じたのは事実です』


 ――それでは異世界取材記の魅力について語っていただけますか?


『先輩が書いた異世界取材記は、とてもリアルです。僕のインスピレーションが感化されるっていうのかな、とにかくビビッドな衝撃を与えてくれました。このインパクトは口では伝えられない。実際にブックストアで購入をお勧めします』


 両手でろくろを回すような動きをするキノシタ。

 その目には自信に満ちあふれている。


『しかも今ならこの本を一〇冊購入すると、我が”キノシタ商会”の特別会員になれるんです。会員が新しい会員を連れてくると、5000円キャッシュバックされるんですよ。すごいでしょう?』


 ――それはマルチ商法ではないんですか?


『いいえ、マルチ商法ではありません。マルチ商法は犯罪ですから。この本はそういうんじゃないんですよ。まず品質が違います。異世界の情報をとても分かりやすく教えてくれる。これはあっちの世界のどの本でもできない事です。さらに会員を増やす事により、とても素晴らしい特典が――』




「ねぇ、せんせー、これって……」

「完全にマルチ商法じゃねーか! KADOKAWAにチクッてやる!」

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