番外第5話 デキる男は宣伝も違う
『ハッハッハ! お困りのようですね先輩!』
いきなり俺のスマホにかかってきたから誰かと思ったら。
「キノシタか? お前なんなんだよ一体!?」
『聞きましたよ! なんでもユーチューバーになるそうじゃないですか! いやー、それはそれは……プッ』
「おいテメェ何が言いたいんだゴルァ!?」
『いやいや失礼。ですが、ド素人の先輩にユーチューバーなんてできるんですか?』
「できねーから苦労してんだよ」
この憎らしい男は、キノシタ。
俺の後輩のラノベ作家であり、何度もアニメ化している大人気作家である。
今は異世界で悠々自適に暮らしている――はずなのだが。
「けど、こうやって電話をかけてくるって事は、何かいいアイデアでもあるのか?」
『いえね、原稿書きたくなくて――じゃなくて、僕も勉強のためにカメラで色々撮ってみたんですよ。そしたら先輩好みの動画になったんで、参考に見てもらおうかと』
「マジか!? お前ヒマだな! 原稿書けよ!」
『たった今、作った動画に値段をつけたくなりましたね』
「いや何事も勉強だ! 勉強のためなら時間を割いてもしょうがないよな!」
『それじゃYouTubeに限定公開でアップしときますんで、URL送っておきますね』
「おう、助かるぜ!」
*
オフィスの会議室のような狭い部屋。
スーツを着たキノシタが組んだ両手をテーブルに載せている。
――異世界で仕事をする事について、何かこだわりはありましたか。
『いやぁ、特にありませんね。現実ではないどこかへ行きたかったんです。自分が今まで見た事がない、まったく新しい概念を入れたかったんです』
――結婚も、新しい概念?
『YesでありNoですね。結婚そのものは僕たちの世界でもできるでしょう? だけど異世界人と結婚、それも重婚をするのは日本の法律ではあり得ません。そこに何か新しいものを感じたのは事実です』
――それでは異世界取材記の魅力について語っていただけますか?
『先輩が書いた異世界取材記は、とてもリアルです。僕のインスピレーションが感化されるっていうのかな、とにかくビビッドな衝撃を与えてくれました。このインパクトは口では伝えられない。実際にブックストアで購入をお勧めします』
両手でろくろを回すような動きをするキノシタ。
その目には自信に満ちあふれている。
『しかも今ならこの本を一〇冊購入すると、我が”キノシタ商会”の特別会員になれるんです。会員が新しい会員を連れてくると、5000円キャッシュバックされるんですよ。すごいでしょう?』
――それはマルチ商法ではないんですか?
『いいえ、マルチ商法ではありません。マルチ商法は犯罪ですから。この本はそういうんじゃないんですよ。まず品質が違います。異世界の情報をとても分かりやすく教えてくれる。これはあっちの世界のどの本でもできない事です。さらに会員を増やす事により、とても素晴らしい特典が――』
「ねぇ、せんせー、これって……」
「完全にマルチ商法じゃねーか! KADOKAWAにチクッてやる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます