第4話Rapt In Fantasy
服の擦れる音が沈黙が支配する生徒会室に響く。透明な風が制服のスカートを翻す。風に混じり青葉の瑞々しい薫りが鼻腔をくすぐる。
「ふぅ」
乙女が溜息をつけば、側に駆け寄るのが紳士の務めだ。
「どうした?疲れたのか?」
「ううん」
空を仰ぎ見たまま、何か物思いに耽っている。しばらく言葉を消失した後、口を開いたのはワダジマエイミの方だった。
「ねえ、アタシ達ってどういう関係なのかな?」
どういう関係と改めて聞かれると、確かに口ごもってしまう。この女子高校生とは友達なのか?それとも彼女なのか?はたまた○○○なのか。どの言葉も、この関係性を形容するのには当てはまらない。
「そうだな・・・・・・確かに分からんな。たまたま道でばったり出逢っただけだしな」
「でも、もう遊園地にも行ったし、友達・・・・・・ではないんじゃない?」
ワダジマエイミが求めている言葉については、うすうす気づいている。だが、その言葉を口にすると、後戻りが出来ない気がして何も言えないままでいる。
「え、アタシと付き合いたいの?」
しまった、考えが読まれた。
「いやいやいやいや、そんなことは思っても・・・・・・」
「じゃあアタシのこと好きじゃないの?」
まるで詰め問答だ。脅迫だ。『好き』と言わなければ、会話のループで永遠に攻め続けられる。逃げることのできない会話の袋小路にはめられた。しかもこの考えはワダジマエイミに筒抜けなのだ。
もはや言い逃れは出来ないボクは、遂にあの言葉を口にする。
「はいそうです。好きです」
嫌々ひねり出した言葉にワダジマエイミはどんな言葉を返すのかと思いきや、既にこの部屋から居なくなっていた。
無駄な勇気を振り絞ってしまったボクは、内心にもやもやした物を抱えながらも校内を再び徘徊する。ワダジマエイミが突然居なくなってしまって行方知れずとなっているので、その居場所を探るのも一興だが、ボクにはもう一人気になる存在がいる。そう、ハタノミキだ。
ハタノミキは初対面のボクにパンティを差し出そうとしてくれた生粋のHENTAIだ。一生懸命ボクとのコミュニケーションをパンティを通して行おうとしていたのだ。ボクは彼女が見せた勇気に報いなければならない。
そう思ったものの、彼女が何処に居るのか全く検討もつかない。偶然入った教室にはいたものの、それがどの教室だったのかまでは当時興奮し過ぎていて記憶に無い。こうなったらクラス名簿を盗み見るしかない。
クラス名簿が確実にある場所といえば恐らく、職員室だ。近くの壁に書かれた学校案内図で、場所についてはすぐに把握出来た。
職員室にたどり着く。言ってもボクは今理事長の格好をしているので、怪しまれることは一切ないはずだ。
「失礼」
紳士は扉を開けるときは静かに、かつ挨拶をしながら入るものだ。ボクが職員室に入った途端、二、三人の職員が仕事をしていた手を休め起立した。
「理事長、おはようございます」
職員の一人がボクに近づき、何か本のようなものを手渡す。良く見るとそれは今売れっ子のアイドルの水着写真集であった。
「理事長好みのハイスクールシチュエーションです」
そんな馬鹿な。理事長は高校に勤めながらこんな物を日常的に読んでいるというのか。うらやまけしからん。すぐ側に取っておきのリアルハイスクールガールがいるというのになんて紳士なんだ。
「ありがとう。早速拝見しよう」
「勿体なきお言葉」
手渡した職員は膝をつき、まるで王に感謝を伝える家来の騎士のような格好で感謝を伝える。そんな崇拝にも等しい態度を取る職員にボクはクラス名簿の在処を尋ねる。すると、意外な言葉が返って来た。
「何をおっしゃっているんですか理事長。ご自身の理事長室に全て保管されてらっしゃるじゃないですか」
素晴らしい。何という理事長だ。しかもそのクラス名簿は生徒の行動や体型、嗜好などを全て専門の職員によって週毎にアップデートされているという。常に全校生徒の身を案じ、全てを把握する事に努めている理事長とはなんと良人であることか。この学校に通っている限り生徒の健全な発育は保証されているようなものだ。ありがとう、理事長。
「ああ、そうだった。ありがとう。恩に着る」
「勿体なきお言葉」
ボクは職員に見送られながら、理事長室に向かった。
職員室から理事長室はそう遠くない場所にある。歩いて数秒でたどり着く。ボクははやる気持ちを抑えながら、理事長室の重厚な鉄の扉を横に引き、中を覗く。
そこにはなんと、校内の更衣室、トイレ、教室などありとあらゆる場所を監視できるモニタが壁一面に備え付けてあった。生徒会室にあったものと比べものにならないほどの数だ。
「美しい」
思わずボクの口から恍惚の吐息が漏れ出す。まるでこれは執念が作り出した芸術品のようだ。何時間でも見飽きない、永遠の象徴。神をも脅かすほどの力がこの部屋には存在する。
そしてボクはそんな壁面を横目に見つつ、例のクラス名簿を捜索する。部屋の真ん中には荘厳な木製のデスクと、応接用の黒皮の三人掛けソファーは一対向かい合わせで配置されている。そのソファーを隔てているのは恐らくクリスタル製の長テーブルだ。この豪華な品々の陰に、おそらく目的の物が隠されているハズだ。
しかし、しばらく探したがクラス名簿は一向に見つかることは無かった。何か特殊な収納方法を用いているのではないだろうか。あれほど個人情報や色々と都合が悪い情報が掲載されているというのだ、それ程までに厳重な管理を行うのは至極当然といったところか。
こういう場合であるのは、部屋に隠し扉があって、その中に隠し部屋や隠し金庫が出現し目的の物にたどり着くというものだ。この部屋にも、もしかするとそのような仕掛けがされているかも知れない。だいたいそのような仕掛けは壁にされている。
思いつきではあるが、無数の壁に備え付けられたモニタの裏や脇などを念入りにチェックすることにした。モニタに接続されているコードの裏に隠し扉のスイッチが・・・・・・あった。見るからに怪しい、赤く光る円いボタン。
「これを押せば・・・・・・」
恐る恐る、ボタンに手を掛け親指で押し込む。すると、反対側の壁から『ボフン』と空気の抜ける音がし、微かに隠し扉の輪郭が浮かび上がった。もうここまで来れば引き下がることはまず考えない。この先鬼が出るが蛇が出るか。はたまた天国が広がっているのか。ボクは隠し扉を内側に引き、中に入る。
そこには、無数の白いライトに照らされた光の空間が存在していた。そして中央には人影が見える。しかも二人。
「だれだ?」
ボクがその陰に声を掛ける。
「ほーら、次はウエストかな~」
返ってきたの、気味の悪いオッサンのイヤラシい声だった。
「ひやっ・・・・・・くすぐったいですぅ」
今度は女子の声が聞こえてくる。もう一つの陰は女子校生だったようだ。しかもこの声には聞き覚えがある。まさか、この声は・・・・・・
「ハタノミキ、か?」
「へ?もしかして」
正気を取り戻し、そのオッサンから一目散に逃げ去り、ボクの方へと駆け出し、抱きついてきた。
「いきなりなんだい、出会ってそんなに経ってないのに」
「あの人、いきなりわたしが廊下で歩いてたら、目隠しされてこの部屋まで連れられてきちゃったんです」
上目遣いであの男の蛮行を訴えてくる。か弱い女の子を虐めるとは不届き千万。このHENTAI紳士が成敗してくれよう。
「なに?貴様!さてはHENTAIだな?拉致監禁するとはHENTAI紳士の風上にもおけないな!」
そんな口上を述べていると、そのオッサンは突然高笑いし出した。
「アハハハハ。それがキミの言い分かね?」
一歩ずつボクに近づいてきたそのオッサンは、いかにも美しく輝く金色のマンキニに身を包んだ理事長であった。
ボクのセカイはHENTAIでミチテイル 天川 榎 @EnokiAmakawa
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