第3話コウコウイコウ
何だかいつもより体が軽い気がする。何故だろう、心が満たされているからだろうか。先日遊園地で家族風呂で存分に『味わって』しまってから、並大抵のモノでは満足できない体になっている。まずい。これはまるで覚醒剤だ。女の子の匂い嗅ぎたい→大量摂取→幸せ→虚脱感→禁断症状→更に大量の女の子・・・・・・の無限ループの完成だ。いつかは夜のホームランも連続で打てるようになりそうだ。
『女の子嗅がずに、撮って眺めよう!』を早速スローガンに、ワダジマエイミをストーキングする。遊園地プレイをした後は、どこかよそよそしくなってしまった。遊園地に行く前はあんなに優しく嬲り殺ししてくれたのに、今となっては家に寄ってさえくれない。だめだ、これ以上摂取を絶たれると、体が震え始め公園で思わず『パンティーーーー!!』と叫んでしまう。一回それをやらかして警察に捕まりかけたこともあったっけか。
一歩でも近くにワダジマエイミ、いや女子高生なら誰でも良い。早く触れたい。嗅ぎたい。なめ回したい。電柱の陰から暖かく見守る陰獣が、今か今かといたずらな風が吹き荒れ、隠されたエデンへの扉を開けてくれないかと強く願う。どこかに神は存在する。そう強く願っていると、地球がボクに応えてくれる。突如として下から吹き上げる風が道を通り抜けたのである。ふきつける風の力と、突然のことで抵抗しようのないスカートは我を忘れ、本来隠すべきであるワンダーランドを臨時開園してしまう。待ってました!とばかりにボクは手元にあるカメラを手に取り、開園時の様子を克明にフィルムに焼き付ける。
今日の収穫はこれでバッチリだ。カメラに保存されたエレクトリカルパレードの数々を、恍惚の表情で眺めていたが、その至福の時はある女に掻き消される。
「なに朝から発情してるの?」
そう、ワダジマエイミだ。
「何って、通学路専属カメラマンとして当然の仕事をしているだけさ」
「通学路専属って、ただ盗撮してるだけじゃん」
そう言うとワダジマエイミは、ボクのカメラを取り上げ撮影された数々の秘蔵写真を丁寧に閲覧し始める。すると、ある写真を目にした途端、頬を緩ませ怪しげな笑いを浮かべた。
「これは、使える」
そう告げて彼女はカメラのデータが保存されているフラッシュメモリを抜き取り、そそくさと学校へ入っていった。
「ちょっと・・・・・・結構気に入ってたんだけどな。ワダジマエイミのエレクトリカルパレード」
ボクは珠玉の作品が収められたフラッシュメモリを奪われたことに、いくら女子校生属性を考慮しても看過できないため、久しく行っていなかった女子校潜入を敢行することにした。
ワダジマエイミの通う女子校は近所でも名の知れた学校で、おいそれとは入学することを許されない進学校である。校訓は『誇りある女子たれ』だそうだ。
そんな女子校にも抜け穴というものが存在する。ぐるりと校舎を囲んだ壁に、更に手を掛けられる場所に有刺鉄線を仕掛けている徹底ぶりで侵入者の行く手を阻んでいるのだが、1カ所だけ途切れている箇所がある。これはボクが今まで度重なるトライによって辛苦を味わった結果出来上がったもので、この存在は巧妙に木々の存在によって隠されている。よってこの女の花園に開いた一筋の光はボクだけの専有物なのだ。よくここから侵入して素晴らしい写真やメイクアップなどを眺めて楽しんでいる。ボクの生きがいの一つだ。
そんな抜け穴に近づいていると、何やらジャンプして必死に壁をよじ登ろうとしている女の子がひとり。ボクはそれをじっくり眺め、一枚写真に収める。うむ、中々に揺れていたぞ。
「ちょっと・・・・・・やめて・・・・・・」
今にも消え入りそうな声でボクに呼びかける。もちろんボクは変態紳士なので、困っている女の子が居たら直ぐに駆けつける。しかもこの学校の生徒となればなおさらだ。まずは裸のご挨拶といこう。
「いやあ、思わず可愛くて撮ってしまったよ」
ばっちりスカートの中を取れる角度から食い入るようにカメラを覗いている裸の人間を、ウブな女の子が見たらどのように映るだろうか。きっと普通であれば叫び声を上げて警察を呼ぶだろう。しかし、その女の子は過度なリアクションを起こさない。まさか、見られることによって興奮する性癖なのか?
「いや・・・・・・だめ・・・・・・」
やはりそうかも知れない!これは貴重なHENTAIだ。
「そうか、そうなのか。見られるのに興奮するんだ」
一歩ずつ、彼女との距離を縮めていく。そのたびに彼女の表情が曇っていく。遂に彼女の足に触れられる距離まで来た。手を伸ばし足首を掴もうとしたその時。
「アンタ、なにやってんのよ!!」
壁の向こうからワダジマエイミが降臨する。既に朝のHRでも始まっている時間だというのに、なにゆえ?
「君こそ、もう授業が始まっているんじゃないのかい?」
「授業なんかどうでもいいよ!それよりアンタ行動の方が気になる」
「別に、いつも通りの日常を送っているだけだから」
「うっさい。その日常が犯罪なんだって」
ワダジマエイミはボクの首からぶら下げていたカメラを奪い取り、校舎に投げ捨てた。プロ野球選手も顔負けのストロークを見せ、見事にレンズは幾千の破片へと変貌を遂げた。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!ボ、ボクの相棒がああああああ!!!!!」
「また有り余ってる金で買えば良いでしょ」
あのカメラには・・・・・・、秘蔵コレクションが内蔵メモリにたんまりと残されていたんだ。このままカメラが再起不能になってしまえば、それらのデータが取り出せなくなってしまう。いや待て。今この場の状況を考えるんだ。壁の上にはワダジマエイミ。更にHENTAI候補の女の子が壁をよじ登っている最中だ。ワダジマエイミとこの女の子のダブル花園が見られるんじゃないのか?二輪の華が同時に咲くことなんか、生きているうちに早々出会すことは無い。カメラさえあれば最高だったのに。しかし、人間には眼というレンズがあり脳というフィルムがある。これさえあれば、何だって『記録』出来る。
その『考え』を察知したワダジマエイミは、すぐさま壁から降り立ち、それと同時によじ登っていた女の子を壁から引き剥がす。
「なにパンチラ見ようとしてるの?」
「いや、そこにスカートがあったからですよ」
昔のHENTAIは、なぜ貴方はスカートの中を覗こうとするのですか?と尋ねられたときにこう答えたという。
「じゃあ女装した奴のスカートも見るの?」
「もちろん。隠されているものを暴くことに意義があるからな」
「うわ・・・・・・男も範囲内とは」
ワダジマエイミが思いっきりどん引きしている中、女の子は頬を緩ませ、恍惚の表情を浮かべている。
「もしかして、あ、貴方は・・・・・・バイなんですか?」
女の子が甘い吐息を漂わせこちらに近づいてくる。赤い縁の眼鏡と三つ編みカチューシャを装備した彼女に最早死角はなかった。
「ハハ!可愛いモノであればなんでも来いさ!ロリから老人まで、男から女まで可愛ければそれがジャスティスだ」
「そ・・・・・・そうなんだ。へへ、う、うれしいなぁ」
そう言うと、彼女はおもむろにスカートの中に手を入れ、何かモゾモゾと動いている。これは、もしや・・・・・・
「え?うそでしょ?」
ワダジマエイミが呆気にとられている間に、事は起こってしまった。そう、彼女は頬を赤らめ、スカートの中の四次元ポケットから、桃色のパンティーを取り出してきたのである。
「わ、わたし、ハタノミキ。お、お友達に・・・・・・なってくれますか?」
言葉を聞き間違えたのか、ハッキリ分からない。女子学生から「お友達になってください」と誘いを受けた。一応念のために確認しておくが、今ボクは裸一貫だ。裸で街中を歩いている変態に対し「お友達になってください」と言うのは普通の神経ではない。それは常識から考えれば直ぐ分かることだ。もしかして、ボクの幻聴じゃないか?女子校に入れるという興奮で頭がどうかしてしまって、そう聞こえてしまっただけじゃないのか?
いや、お友達の前にもっと気にするべき事柄があるだろう。目の前には脱ぎたてホヤホヤの桃色パンティが差し出されているんだぞ。これを手に入れないで誰がHENTAIだ!世界にパンティは無数にあれども、脱ぎたてのパンティが手に入るのはここしかないのだ。
「も、もう一度言ってくれるかな?」
興奮が抑えきれず、思わず言葉がどもる。
「と、と、とも、友達に、なって、くれますか?」
澄んだ瞳でボクを見つめてくる。そしてボクの目の前には黄金に輝くほかほかパンティが差し出されている。さすがにその光景に違和感を覚えたワダジマエイミは、ボクとハタノミキに割って入り口を挟む。
「いやいやいや、何考えてんのアンタ!」
「え、先輩もお友達じゃないんですか?」
おっと、この娘はワダジマエイミより年下か。後輩キャラも悪くない。
「いや・・・・・・アタシは別に・・・・・・」
ボクと友達であるかという問いに言葉を濁すワダジマエイミ。ボクと家族風呂でめくるめく官能の世界を堪能した身で良くもぬけぬけとそんな事が言えたもんだ。
「何を言っているんだワダジマエイミ!ボクと君はフレンドじゃないか。セフレ」
思わず顔を紅潮させ、ボクを殴ろうとするワダジマエイミ。顔をパンティで隠し、二人が視界に入らないようにするハタノミキ。この二人、何か勘違いしているんじゃないか?
「なに興奮してるんだ。セフレって、セントウフレンドの略だぞ。キミ達はなにを想像してるんだ?」
「セ、セントウ?」
ハタノミキは、顔を覆っていたパンティを取り払い、ボクを再び見据える。
「そうさ、ボクとワダジマエイミはセントウで風呂を共にする位仲の良いセフレなんだ」
すっとボクはワダジマエイミの手を取り、ボクの胸元に引き寄せる。
「ちょっと、あんまり恥ずかしいことしないでよ」
ワダジマエイミはまんざらではないらしく、ボクに抱き寄せられハニカミ笑みを浮かべている。そんな二人を見てうらやましく思ったのか、ハタノミキはボクの背後までトテトテと小さな歩幅で歩いて行き、腰の辺りに手を掛けた。
「わ、わたしにも・・・・・・やさしくしてくれますか?」
背中にじんわりと伝わる熱。皮膚を揺らし細胞を励起させる、麻薬のような声。それはボクのHENTAIリビドーを爆発させるのには十分なものだった。
「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
我を失ったボクは、ワダジマエイミを突き飛ばしハタノミキに飛びついた。首筋に鼻をこすりつけ、体を洗った時に付いた匂いであろう石けんの香りを堪能する。
「ひゃっ、くすぐったい、です」
ハタノミキにボクの荒々しい鼻息が耳に届いていたようで、小刻みに体が震えだしている。
「ちょっと!な、何やってんのHENTAI!」
突き飛ばされたワダジマエイミは、顔を真っ赤に染め、二人を引き剥がそうとする。
「な、何をするんだワダジマエイミ!今はテイスティング中だぞ」
「なにがテイスティングよ!女子校生に抱きついて匂い嗅いでるなんて、警察に見つかったら速攻逮捕なんだからね!ってか、あんた元々裸で出歩いてるんだから更に罪を重ねちゃダメでしょ」
鬼気迫る説得に見事に圧倒され、ボクとハタノミキは体を離す。ハタノミキはとろんとした眼でボクを見つめ、人差し指を嘗める仕草を見せる。まだ物足りなかったのか、あのプレイでも?
「ちょっとアンタ!なに朝から発情してんのよ!早く教室行きなさい!」
結局ワダジマエイミがお姉さんスキルを発動し、ハタノミキを校内に連れて行ってしまった。
このままでは不完全燃焼だ。あんなお預けを食らって只で帰るとは、HENTAIの名が廃る。しっかり味わってから帰路に着こう。
改めて校内への侵入を試みる。既に始業してしまったため、門はもちろん閉鎖されている。警備員が常に見張っているため、そこからの侵入は事実上不可能といっても良いだろう。先ほどの抜け穴も、ワダジマエイミに発見されている。そこから入ろうとすれば一瞬で見つかり、今度こそタダでは済まないだろう。
はてさて、どこから侵入すればいいのか。やはり正攻法でいくべきか。正門から堂々と入って行くのが今の中では最善の策だ。だが、ボクは教師ではない。外から見れば裸でうろつく不審者だろう。であればどうするか。
「そうだ、理事長に変装しよう」
ここの理事長は年齢も若くアバンギャルドで有名だ。最近先代が急逝しいきなり引き継いだ故に、理事長がどんなことをするか分かっていない。加えて理事長はコスプレ好きで、良くセーラー服やマンキニで学校内外を出歩いているそうだ。なら裸で出歩いていても問題ないはずだ。
ボクは理事長の振りをして、自ら校門に突入する。当然警備員に止められる。
「君!ちょっと何してんのこんなところで」
警備員が警棒を取り出し、ボクにメンチを切ってくる。ボクは悠然とした態度で応える。
「なんだね君は!この学校の理事長になんて無礼な!」
その言葉に、警備員がハッとし咄嗟に警棒をしまう。
「す・・・・・・すいませんでした。お、お通りください」
ボクの言葉に目の色を変え、校門を開きボクの侵入をあっけなく許した。
難なく校門から入る事が出来た。やはりボクの裸には人を狂わせる魅力があるらしい。あれほどしっかりしている警備員でさえボクの裸を見れば、たちまち勘違いを起こすほど目を狂わせてしまう。嗚呼、なんて罪深き裸なんだ。
さて、HENTAIにとってのパラダイスである女子校に潜入した訳だが何をしようか迷ってしまう。このテーマパークには素晴らしいアトラクションが数多く存在しており、それは日中所狭しとフル稼働しているのだ。
まず代表的なのが『教室』だ。男子校や共学校ではまず見られない、パンツやナプキンが空を舞い、目と目で心を通い合わせ綺麗な百合の花が咲くなど、素晴らしい世界が広がっていると聞く。HENTAIとしては是非とも『授業参観』してみたいものだ。
早速ボクは昇降口からキチンと靴を脱ぎ、忍者よろしく音を立てないように歩き、直ぐ近くの教室を覗いてみた。既に授業は始まっているらしく、黒板の前で先生がチョークで何か書いている。それを良いことに、生徒達は化粧をしたり、ケータイをいじったり、胸をもみ合ったりなどそれぞれが好きなことをしている。さすが思春期、先公の言うことなんか聞かねーぜオーラを前面に出している。これはボクが直々に出向き『教育的指導』をして女子校生を『調教』すべきではないのか?
そんな心配をよそに、やはり先生がその空気に耐えきれず罵声を生徒に浴びせる。
「何やってんだお前ら!授業受けに来たんだろ!黙って聞いてろボケが!!!」
なんと汚い言葉を使うのだこの女教師は。これは女教師も『調教』が必要か?
「何だよてめー、はやく授業進めろよ」
「うぜーよ先公」
「バーカバーカ」
汚い言葉が次々と生徒からも吐き出されていく。大和撫子が揃いも揃って、はしたないことこの上ない。見るに堪えなくなってきたので、思い切って教室の前の扉から威風堂々と飛び出していった。
「キミ達、本当に世に言う女子校生なのか?実に嘆かわしい」
その言葉とその風貌に、一同唖然とした。
「え?何?なんで裸?」
「ちょーヤバいんですけど」
「マジ受けるんですけどこのHENTAI」
ボクの姿を見て嘲笑したり、目を必死に覆ったりして楽しんでいる。ああ、なんて快感なんだ!大勢の女子校生がボクの裸に釘付けになっている。やはり裸は見られてナンボ。見られれば見られる程ボクのリビドーが高まっていく。朝の挨拶の時とやっていることは同じだが、ここでは明確にボクの裸に目線を向けているのを間近で確認できる。
おっと、あまりの快感に我を忘れる所だった。ボクはこの女子校生たちを『調教』しなければならないんだった。
「キミ達!ボクの裸よりもっと学ぶべきものがあるんじゃないんのか?」
「うぜーよHENTAI!」
「わ、わたしに体でおしえてくれますか?」
おや?何か聞き覚えのある声が聞こえたような・・・・・・って、ハタノミキか?このクラスだったのか。何という奇遇なんだ。これもまた運命という奴か。
「もちろん、肉体的指導はお手の物だ。体育館倉庫へ行こう」
「な、な、何やってんのアンタ!!!」
騒ぎを聞きつけてきたのか、何処からかボクの思考を読んで来たのか、ワダジマエイミが教室に乱入してきた。恐るべしワダジマエイミ。ボクの行動を逐一監視してるんじゃないか?
「別に監視してないわよ!勝手にアンタの思考が流れ出てるだけよ」
それ程までにボクのリビドーが溢れ出しているというのか。
「・・・・・・とにかくここから出ましょう。授業の邪魔よ」
ボクの手を取り、教室から引きずり出そうとする。しかし、そんな光景を見てロマンスに餓えている女子校生が黙って見過ごすわけがなかった。
「ねーねー、二人って付き合ってるの?」
一人の女子校生がこんな言葉を投げかけた。ボクは待ってましたとばかりに満面の笑みでこう答えた。
「ええ、ボクたちはセフレです」
当然そんな言葉を聞いた女子校生は一斉に沸き立つ。
「キャー!!!」
「みだらだわ・・・・・・」
「HENTAI!」
賛美と批判の入り交じった教室はさながら動物園と化した。獣達が好き好きに咆哮している様は女子校生といえども、その目にはとても卑俗に映った。
「早く!こっち来なさい!」
もう我慢ならなくなったワダジマエイミは力一杯ボクを引っ張り教室から引きずり出す。名残り惜しくもハーレムランドとは、しばしのお別れとなった。
先ほどの教室からはだいぶ移動し、学校内の部室棟へと足を運んだ。
「全く、アンタは世話ばかりかけて、もう・・・・・・」
先導しながらブツブツと文句を垂れ流すワダジマエイミ。こんなボクに付き合っていて、授業の方は大丈夫なのだろうか。
「大丈夫よ。別に授業を受けなくてもテスト満点だし」
なるほど、人の思考を読み取れるのであれば勉強しなくても答えが分かってしまうのか。テストでは最早無敵なのだろう。
「そんな汚い真似はしないわよ。ちゃんと勉強してるんだから」
そう言って案内されたその部屋は、『生徒会長室』だった。
「へぇー、生徒会長とお友達なんだ」
「違うわよ。アタシが生徒会長なの」
仰天動地だ。この見るからに友達がいなさそうなつっけんどん女子校生が、まさかの生徒会長?いやいやいや、さすがに嘘だろう。こんな奴が生徒会長を務められる訳がない。
「何さっきから失礼なことばかり考えてるのよアンタ。ただと、友達がいないだけで、生徒会長として『表』では人気なのよ」
「ほう。猫を被って見事当選したわけだ」
「猫被って・・・・・・確かに被ってたわね。必要以上にボディタッチしてたし」
凜々しい女というのは、いつの時代も同性から人気なのだろうか。宝塚歌劇団の男役が女性であるにも拘わらず、同性人気を集めているそれと同じであろうか。
「それで、猫被り生徒会長は授業も受けずにここで何してるんだ?」
ボクは断りも無く、生徒会長のデスクの本革張りの椅子に腰を掛ける。
「べ、別に何だってイイでしょ?生徒会長の仕事が忙しいから、特別に授業が免除されてるの」
「本当は?」
「・・・・・・あんまり人と居るのが好きじゃないの。聞きたくない事も聞こえて来るし。ここなら自分のペースで勉強も出来るし」
「体育はどうするんだ?」
「体育も同じよ。万年遠隔見学」
そういって生徒会室にある無数のモニターの電源を付ける。そこには校内の監視カメラの映像が映し出されていた。
「アタシはこの部屋で学校に関わる全てのことを処理できるようにした。そうしないと、『声』に押し潰されてアタシ自身がどうにかなっちゃうし。いわばここは、アタシが学校に通うための最後の砦なの」
監視モニターから無数の声が聞こえてくる。会話を楽しむ声、泣きじゃくる声、陰湿な虐めによって泣き叫んでいる声、悲喜交々のこの声達が、ワダジマエイミの頭の中に入り込み続けている。それは生きている限り続く『拷問』だ。ワダジマエイミはそんな環境下に置かれていても尚、ボクと友達になろうと頑張ってくれた。最初に出逢った時もそう、遊園地に行った時だって、外には無数の人が蠢いている中で、彼女は懸命に笑いかけ続けてくれた。
それなのにボクは一体、彼女に何が出来たというのだ。何も出来ていないじゃないか。ただ裸体を見せつけ、彼女と居る時は『セフレ』と言い張り続け、彼女を辱めているだけじゃないか。ボクはHENTAI紳士なのに、なんてヒドいことをしたんだ。
「そんなことないよ」
ワダジマエイミが、そう言うとボクの背後から手を伸ばし抱きついてきた。
「アンタはいつもそう。他の人と違って心が真っ直ぐなの。ちょっとHENTAIなところはあるけど、でもそれがどうでも良くなるほど誰よりもキレイで輝いて見える。これって、どういう感情なのかな。友情?それとも・・・・・・」
ボクは彼女の手を取り、こう告げる。
「それは、リビドーだよ。キミぼボクと同じでHENTAIなんだ」
「・・・・・・そうね、こんな裸の人を好きになるなんて、HENTAIよね」
幼い感情ながらも交わされた愛の誓いは、体を駆け巡り宙を舞った。
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