ダンデライオンの君に
アスファルトの隙間から元気よく黄色い花を咲かせている草がある。
ダンデライオンと言う別名を持つそれは、春の花としてはもう当たり前のようにそこらじゅうに生えている。
生命力の強い花としても有名で、アスファルトの隙間から生えるくらいだからそれはもう可愛くて元気で健気な印象をこちらはもってしまう。
しかし侮るなかれ、ダンデライオンという言葉はどうやらライオンの牙を連想させる言葉に由来するらしい。
そういえば君は、健気で可愛らしい子だったけど一度牙をむいた時には容赦をしない人でも有名だった。
一度不良か何かに絡まれた時、君は一撃で返り討ちにしたという話を聞いて僕はびっくりしたものだ。
その後、多数でお礼参りとやらが再び来たらしいが、その時もまた機転を利かせて多数を殴り倒したらしい。
もちろん武器や道具、そこらにある障害物や狭い道なども利用して嵐のように街を駆け抜けたと聞いた。
それからの君は、繁華街で一目置かれていたけども僕には一切そんな素振りを見せなかったのもまた驚きだ。
君は今、どうしている?
僕は相も変わらずあの街に住んでいる。
何も変わらず、電車に乗って会社に行って、働いてたまに酒を飲んで帰ってくるくらいだ。
綿毛に乗って飛んでいくタンポポの種のように、君は色々な所を見たいと言って世界へ風に乗って飛んでいった。
最初は何処へ行ったのだろう?
最後は何処へ行きつくのだろう?
行き先も告げず、期間も告げず、本当に気の向くままに君はゆらゆらと飛んで行った。
前からふらりといなくなる癖はあったけど、今回のは特に長い。
僕はずっと待っている。
この騒がしい街に根を張って、じっと空を見つめている。
空は青く高く、雲は風で流れている。
間もなくタンポポは花を散らして綿毛になり、風にのって種を飛ばすだろう。
その後は雨の季節が訪れる。
じっとりと鈍色の重い雲が立ち込め、稲光が空を走る。
地面を踏みしめる音が聞こえる。
土の地面だからじゃりじゃりと音が立つ。
じゃりじゃりはやがて僕の家の前で止まり、大きな声が聞こえて来た。
「ただいま」
飛んで行った綿毛はどうやら地面に辿り着いたようだ。
感傷的な季節の日々 綿貫むじな @DRtanuki
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