あねデブ
@Bizon
第1話 姉、一念発起
姉はデブである――
本人はぽっちゃりだと言うがデブである――
そもそも、ぽっちゃりと言った言葉自体がデブの現実逃避なのである――
BMI30超えがデブらしい、姉は27なのでまだセーフと言っているが四捨五入すればアウトである――
だから俺は姉をデブとみなす――
「デブデブ言うなっ!!」
「事実そうなんだからしょうがないじゃん」
一つ年上の我が姉の"さくら"、同じ高校に通う三年生。
桜から取ったのだが名前らしいが、どちらかと言うと桜餅からのが良く似合う。
しかも苗字が細見なのは何たる皮肉か――。
「見てなさいよ、育人!!
今年こそ夏に向けて痩せて、海でモテモテになってやるんだから!!」
「今年"も"そのセリフを聞かされる身にもなって欲しい……」
前向きな見方をすれば、確かに"痩せれば"そこそこ良いライン行くだろう。
現状の姿ですら告白して来る男がいるぐらいなのだ、余程切羽詰ってたのかデブ専なのだろう――だが、当時のこの豚は好球必打せず『えー、あの人はありえなーい』と言って断った馬鹿である。
確かにオール普通の平凡な奴だったが、選り好み出来る立場なのであろうか?
おかげで彼氏いない歴十五年でピリオド打てるはずであったのに、プラス二年の現役続行中だ。
「今年は自分に打ち勝ってやるわ!!」
「痩せると言った矢先にお菓子食う時点で自分に負けてるだろ」
「あ、明日から痩せるんだから――ッ」
デブは意思が弱い――。
今日できない奴が明日もできるはずないのに……まぁ三日持てばいい方か。
・
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翌朝、姉はいつも二枚食べる食パンを一枚にしていた。
まぁいつもの事なのだが、しばらくは本気な姿勢を見せる。
「今日から食事制限して、運動すれば一か月ぐらいで痩せられるはずよ」
デブは見通しが甘い――。
普通の人は三か月ぐらいかけてやっとだと言うのに……。
運動も一般人の1.5倍動いてようやくなレベルなのに、デブは0.5倍動いただけで運動した気になる。
そして今日はよく動いたからと1.5倍食う。だから肥える。
新学年になった初めての体育の授業で、始まって十分程度なのにヘバっている姉を見、
今回のダイエットも二日で終わるだろうと思っていた。
「やったぁっ!! 700g痩せてるっ、一キロ減ったー!!」
「それは誤差ではないのか……?」
デブは一キロ増量は誤差だと言って認めないくせに、一キロ減量は認めるご都合主義である。
しかも増量時はグラム数は切り捨てているのに、減量時は大いに切り上げるんだから……。それに、記念の一杯とダイエットコーラを飲むんだから更に意味がない。
努力した自分にご褒美と言って自分を甘やかす。
「ダイエット何たらってついてるからって痩せるわけじゃないからな?」
「ゼロカロリーなんだから大丈夫に決まってるでしょ!!」
どうしてデブは砂糖や人工甘味料の類は一切見ず、カロリーしか見ないのだろう?
しかもあれはゼロではないと言うのに……太らないかもしれないが、他のを摂取していれば無駄だと思うんだ。
だが、どうしてさく姉はこの時期に痩せようと決意したのだろうか。
いつもなら六月末からダイエットを始め、七月頭に諦めるのが毎年夏の行事だと言うのに、
今回は二か月も前倒しでするなんて珍しい。
「え、えぇっとね……実は好きな人――できたんだ……」
「それも毎年の事だと思うんだけど……」
秋冬にイチャつくカップルを羨ましく思い、手当たり次第の男(ただしイケメンに限る)に惚れる。
そしてそれに彼女が居たと知り、勝手に落ち込んで失恋ショックで食う。
そして太る。
んで、夏場にダイエット決意、即諦めてそのまま……
また秋冬に――がルーチンなのだ。
「こ、今回はイケメンじゃないよ――妥協したけど、良さそうな人なんだ……」
お前が"妥協"なんて言葉を使うなと思ったがここは飲み込んでおこう。
どうやら今回はそれなりに本気らしい。
「じゃあ、告っちゃえばいいじゃん――」
「だ、ダメだよっ……こんなぽっちゃりじゃ断れちゃうし……」
「ぽっちゃりって言葉を自分で言うな。んで、その愛しい男と話はしたの?」
「う、うん――ちょっとだけ、ね」
「それで、デブは嫌いだって?」
「言うかッ!! でもスリムなの好きみたいだから……
だから育人ッ、ダイエット手伝って!!
今年こそ、今年こそ海にッ――その人と海デートしたいの!!」
だったらその手に持っているコーラから手を放せ、飲むな。
まぁ珍しく俺に手伝えと言うぐらいだから意思はそれなりに固いのだろう。
手伝ってやってもいいけれど、ダイエットなんて何すりゃいいんだ……?
元々痩せてるし、俺には太ってる奴の気持ちなんて分からん。
「いちいちムカつくわねアンタッ――
と、とにかく間食するのを止めて、運動に付き合って!!」
「うーん、まぁそれぐらいなら良いか」
さく姉の恋路は上手く行くか分からないが、こうしてダイエットが始まったのであった――。
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