第3話 姉、モテる
「よーしっ、今日も頑張るぞッ!!」
ダイエットを始めて約一か月――
目に見えてその成果が表れているせいか、さく姉の朝の登校もやる気が段違いだった。
体重は62キロと大きくは変わっていないものの、顔から体型まで若干スッキリして来ている。
最初に比べれば6キロも落ちてるのだからまぁ当然だろう。
未だに悪の魔の手が伸びてきているが、さく姉は懸命にそれを振り切ってここまでたどり着いた。
同時にクラスの男子からも何となく話題にあがっている(本人談)らしいので気分が乗りに乗っているようだ。
普段なら自ら疲れに行くような行為なんて一切しなかったのに、今では進んでジョギングに取り組んでいるし、
親もこんな活き活きしているさく姉を見て嬉しく思っている。
うーん、恋する力ってすごいな……。
ただあれだ……今更なんだけど受験勉強はいいのか?
さく姉は大学進学を目指しているが、三年の夏と言えば一番大事な時期だし
ダイエットに恋にと言っている場合でもない気がするのだが……。
まぁ、ここで水を差したらやる気を削いでしまうので黙っておくけれど。
相変わらず何かを始めるタイミングが悪い人だ――。
「な、なぁ……お前のお姉さんってあんなスタイル良かったのか?」
「んー……まぁ腹回りがダルダルだっただけだからなぁ。好きな人の為にダイエットしてる。」
「あぁなんてこった……お前に気兼ねせずアタックしときゃ良かったぁ……。」
中学時代からの友人の和馬もさく姉の変化に気づいているようだ。
俺からしたら言うほど痩せた気がしないんだが、普段から顔を合わせているせいだからなのだろうか?
元からさく姉に気を寄せていた友人は、『好きな人』と言うワードに酷く落ち込んでいた。
さく姉に興味持ったのがうちに来て、干しているさく姉の下着を見てと言う不純なきっかけなのだが……。
「けど、そんな見て分かるのか?」
「当然だろっ、めちゃくちゃ細くなってるじゃん!!」
あくまで"最初に比べれば"だが……
あのダルダルの顎や頬肉が引き締まったからそう見えるのだろうか?
「それにあの胸もだし、お尻のラインもいいし、あのちょっとだけたるんだ感じがさ……。」
こいつはさく姉が、と言うより単にデブ専じゃないのか?
うーん、だがこいつが目に見えてそう言うって事はやはり結構痩せた部類に入るのだろうか
そうだったら共に頑張ったかいがあると言うものだが……。
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「ね、ねぇ育人――好きでもない人からアドレス教えてって言われたらどうする?」
「んんー、別に教えても問題ないと思うけど。何、言われたの?」
「う……うん……断れなくて教えたんだけど、いいのかなって……。」
「別にメールするぐらい良いんじゃない? やったじゃん、念願のモテモテになれて。」
「そ、そりゃね? でもさ……。」
恐らく想い人に申し訳なく感じているのだろう。
さく姉は昔から変な所で融通が利かないのだ。
「め、メール来てるんだけど……どうしよう……あぁどうしよう……。」
「俺以外の男とメールしたことないもんね……。」
「そそっ、それぐらいあるわッ!
あぁでも『今何してる?』って言われてもどう返事したらいいんだろ……。」
「何、その人も気になってる系なの?」
「ち、違うもんッ!!」
「じゃあ普通のメル友でいいじゃない。深く踏み込まないようにしといたら。」
「そうかなぁ……うん、じゃあ『ダイエットの為に運動してる』って送っておく。」
それもどうなんだと思ったが、別に相手の気を惹きたいわけでもないし大丈夫だろう。
と言うか男にアドレス聞かれるんなら、その想い人に聞きに行けばいいのに。
どうしてデブは変なとこで卑屈になって消極的になるんだろうな……。
「その好きな人のアドレスは聞いたの?」
「ななっ、き、聞けるわけないじゃない――こんなぽっちゃりが聞いても教えてくれないし……。」
「デブだと何度言えば……けど、男に聞かれたんだから十分通用するって事じゃん。
よくうちに来る和馬もさく姉が痩せて可愛いみたいな事も言ってたし、いけるんじゃね?」
「え、えぇぇッ――う、ううん……ど、どうしようかな……勇気出して聞いてみようかな……。」
別に誰かの許可とらなきゃいけないわけでもないんだし。
気になる人ならいけばいい、それで『ごめんなさい』だったら最初から脈なしだったって事なんだから。
しかし、こんな時にさく姉のモテ期が到来するとは思わなかったな……。
まぁ元々は気のいいデブなんだし、体型もデブ以外は悪くないんだから、デブな事以外モテない要素はないんだよな。
―目標体重まで-7kg タイムリミットまでおよそ1か月―
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