第4話 姉、アドレスゲット
その翌日――超ハイテンションでさく姉が帰って来た。
恐らくは上手く行ったのだろう、スマホを持って小躍りしている。
「育人ーありがとーッ……ついに、ついに念願のアドレス貰っちゃったぁー!!」
「へぇ、やったじゃん。」
男に免疫がないのもあるが、このデブはそもそも最初から難しく考えすぎなのである。
余程のブサイクでない限り女に言い寄られて嫌な思いをする男はいない。
いきなり先の展開を考えるせいで二の足を踏んで進めないだけなのだ。
これまでに好きになったのが、単に気の迷いみたいなものだったのもあるが……。
「え、えぇっと……メール……来ないんだけど?」
「知らんがな……。」
アドレス教えてと言ってきた男から来たので、どうやら交換したら男が送るものだと思い込んでるらしい。
こう言った場合は、聞いた・教えてもらった側からメールを入れた方が相手からも返事しやすいのだが――。
これまでが受け身な上に、男とアドレス交換なんてした経験なんてないから知らないのも当然なのかもしれない。
「さく姉から送ればいいじゃない。」
「え、でも……|卑(いや)しい女って思われないかな?」
「焼肉食ってる時のさく姉を見ればそう思われるだろうけど、メール送るぐらいでは別に思わない。」
「う、うっさいッ!? じゃ、じゃあ送ろうかな『本日はお日柄もよく』っと……。」
「馬鹿にしてんのかと思われていいのならそれでいいと思う。」
「だ、だって分かんないだもんッ……!!」
「普通に『今日はありがとう』とかそんなのでいいじゃん……。」
本気であれを送るつもりだったのかと思うとゾっとする……。
運動中もメールの返事が来るまで、十秒に一回ぐらいのペースでスマホの画面を確認していたが
この様子だと、一昔前ならセンター問い合わせ送りまくってただろうな……。
ただこのお蔭でダイエットにも気合が入ったのか
『私あなたの為に頑張ってるの』オーラを出していつもより必死で身体を動かしていた。
男からしたら押し付けがましいはた迷惑なオーラだが、しばらくは許してやって欲しい。
デブはこんな機会でないと本気でダイエットに取り組まないんだから……。
そもそも、さく姉は太っている事がコンプレックスで、消極的になり自分に自信を持っていなかった。
そのせいで『自分は何をしてダメなんだ』と思い込んで、努力して取り込む事をしてこなかったのだ。
今では鏡に映る自分を見るのすら嫌がっていたのが、しょっちゅう覗き込むようになり自分に自信を持ちつつある。
上手く行くかどうか分からないが、今回のさく姉の恋路は応援してやろうと思った。
家の中では『私は努力すれば痩せられる、努力すればモテる』と豪語するだけで、
これまで努力して来なかった結果があんだけデブった事に本人は気が付いていないのだが……。
まぁそろそろ結果を出してもらいたい――俺も彼女と遊びたいから。
「そう言えば、その人とクラスでも会話してんの?」
「う、うん……ちょっとだけ、同じ委員で集まりあるよとか……」
「業務連絡だけじゃん!?」
いくらメルアド交換したと言っても、痩せてからまだ先が長い気がするんだが大丈夫なのか……?
せめて互いにちょっとずつでも会話、放課後はメールできるようになっていれば少しはいけるだろうに。
とりあえずメールをウザいくらい送らないように注意を促しているが、この消極デブなら心配はなさそうか。
デブ仲間とはいつ止めるんだ? ってぐらいずっとスマホを握ってる事があるのに。
「そう言えば佐紀ちゃんがね『私も痩せて彼氏できたらエッチで痩せるダイエットする』って言ってたんだけど。」
「そこに至る過程をすっ飛ばすのか……。」
そもそも痩せたらセックスダイエットなんてする必要ないし、ただヤりたいだけの豚じゃん……。
さく姉がたまにおかしな性知識を得てくるのはこの豚のせいなのか?
男の娘もその気になれば妊娠できるからとかワケの分からない事も言っていたが。
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帰って来た頃には、俺もさく姉ももう全身汗だくになっていた。
段々と暖かくなって来たのが分かる……さく姉はいつものように恥じらう事なく堂々と服を脱いで風呂に向かったが
どうしてデブはガサツと言うか、無駄毛の処理から怠るのだろう……。
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