第2話 姉、ダイエット開始
さく姉ダイエット開始二日目――
「ちょっとだけ、ちょっとだけお菓子ぃー……。」
ゾンビがドンドンッと扉を叩いている――
間食できそうなお菓子類は全て俺の部屋に保管しており、飢えた豚がそれを求めて家中を徘徊していた。
ついでに何も買えないように財布も預かっている。金があればそれを持ってコンビニに行く可能性があるからだ。
さく姉の身長は158㎝、体重は自己申告60kgと言っていたが、実際は68kgだと知っている。
それを元にさく姉に必要な摂取カロリーを求めてみた所、標準体重55kg前後に約1500kcalにまとめないといけない。
まぁこれぐらいなら間食を止めさせれば強いて食事制限する必要もなく数値内に収める事ができる。
家の中で徘徊され続けるのも鬱陶しいので外を散歩――ウォーキングさせる事にした。
走らせるのが一番だが、デブを走らせると膝をやるのでまずは慣らし運転から始めないといけない。
「走った方が早く痩せるし効率いいじゃない。こんなので痩せないよ。」
「デブは早くに結果求めすぎなんだよ。短期間で痩せようと一気にアレコレするからデブは続かないんだ。」
「デブデブって言うな!!」
歩き始めて十分――余裕ぶっこいていた豚は息をあげていた。
ペースが遅く、ふぅふぅ言いながら夜道を歩いている。
何十秒目を離したらどこに行ったのか分からなくなるぐらい遅い。
「も、もう三十分、たっ経ってるでしょッ?」
「まだ十二分だぞ……しかも本来は一時間歩くのを最初だから半分にしてると言うのに。」
「え、えぇぇ……」
今までのさく姉ならこの時点で心が折れて『もうやめる』って言葉を発しているだろうが
今回は言わないでやりきろうと言う姿勢を見せているあたり恋の本気具合が窺える。
その内分かるのだろうがどんな男なんだろうか……。
途中、置いてけぼりを喰らわしそうになったものの何とか三十分のウォーキングが終了。
身体が温まった状態のまま風呂に直行させ、湯上りにストレッチで本日のメニューが終了――
「お、お腹空いて寝られないよ……。」
「嫌でも寝ろ。」
「うえぇぇん……。」
全て独学でのダイエット方法なのでこれが合っているか分からないが
とりあえず運動と食事さえ制限しとけば少しは痩せるだろう――
・
・
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それから一週間が過ぎ――
ウォーキングにも慣れてきたのか何とか一時間歩けるようになった。
それでも家に帰って来た頃には汗だくになっているが……。
この日から筋トレもさせようと腹筋をさせたのだが……
腹筋は腹の肉がつっかえて持ちあがらない、腕立ては自重で持ち上がらないと散々な出来だった。
とりあえずダイエットによって胸がしぼむ声もあるので、バストアップの為に大胸筋を鍛える運動はかかさずさせている。
ホント専属トレーナーになった気分だ――と言うかジム行けよジムに。
「えぇ……お金かかるし疲れるし……。」
「疲れなきゃ意味ねーだろッ!?」
「佐紀ちゃんらは『そんな痩せる必要ないよー』って言ってたし……
だ、だから――明日その……アイス食べに行きたいから……財布ちょーだい?」
佐紀ちゃんとはさく姉のデブ友達の一人だ。
そろそろかと思っていたが、ついにデブの醜い足の引っ張り合いが勃発したのだろう。
デブ同盟の中で一人痩せる抜け駆け行為は決して許されない事だ。
それが発覚すればそれ相応の報い(リバウンド)を受ける事になる。
デブは上を見ず、下を見て自分を安心させる生き物なのだ。首の肉で下見えないと言うのに下を見ようとする。
「別にいいけど。ほら。」
「やったぁー楽しみー」
「その男の子はいいのかなー……?」
「はぅッ――!?」
財布を手に固まっているさく姉。
ずっと共にいたデブの友情か、好きな人への想いか――今どちらを取るか天秤にかけているのだろう。
これだけは自分の意思で決定させないとならない。
俺が制限しっぱなしではいつか反動が来て悪魔のささやきに乗ってしまうのだから。
別に乗っても、その程度の恋心だったとなるし構わないけど。
「あ、あぅぅぅ……あぅぅぅ……ぅぅ……これ――やっぱ持ってて……。」
「えー?」
「いいから持っててッ!! またデブの仲間に戻りたくない!!」
女の友情とはなんとも脆い物だ。
……と言うか、お前もまだデブだろうがっ、何ちょっと痩せただけで同盟から脱却した気になってるんだよ!!
―目標体重まであと-11kg、タイムリミットまでおよそ2か月―
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