第6話 姉、再び
「じゃ、じゃじゃじゃあ行ってくるね――。」
本命は別と言いながら、ずいぶんと気合入れてるんだからどっちが本命か分からない。
さく姉も真面目だから律儀に全部真正面からメールを返していたのだろう
学校でも想い人よりその人のがまだ会話する事多いらしいし――。
しかし、これまでのさく姉には見向きもせず、痩せて可愛くなったら手を出すとは現金なもんだ。
最初で最後の青春だろうから言わないでいたけど、どう言った経緯で声かけて、学校でどんな話してるんだろうか?
さく姉は他のデブ同盟と趣味が全く合わない――
あのデブメンツは腐女子、それとコスプレ好き。いわばオタだ。
さく姉はどっちかと言うと漫画を読むだけの方で、デブメンツに話を合わせてただけにすぎない。
あの人の趣味はぬいぐるみ集めや編み物、料理と言ったものだし。
料理はまぁ……上手いかどうか別だが味がひたすら濃い。デブ好み。
ファッションも無頓着で、本人が思う一番ベスト――な恰好で行った。
ショーパンにピッチリめのシャツにベスト……何故そんな身の程知らずなので行ったのだろう。
パンツはギリギリ許せるにしてもシャツはもっとゆったりめのにしろと……。
いやまだゆったりめ"だった"か――お気に入りで腹回りキツくなって着れなかっただけだから。
下着は新しいのを買ってそれを身に着けていた。
実は期待してんのか、さく姉なりのエチケットなのか分からん――。
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日が傾いてとばりが降りている――
デートに出かけて五時間ぐらいか、夕方七時ぐらいにさく姉が帰って来た。
心ここにあらず――上の空でぼうっとした様子でリビングに戻り、ソファーに腰かけた。
実はヤンチャで一発ヤられちゃったか? と思っていたがそうでもなさそうだ。
「い、育人――わっ私……こ、告白……されちゃった……。」
ヤンチャではなかったが中々決断の早い人だ。まぁ懸命な判断でもあるだろう。
この先に待っている事を考えれば、今か次のタイミングでないと色々辛くなるから。
「で、どうしたの?」
「す、好きな人いるのに……保科君と遊んでたらいいかもって思って……うんって……。」
「良かったじゃん。念願の彼氏ができて。」
「で、でも――。」
「さく姉はもう昔の自分に戻りたくないんでしょ?」
「う……うん……。」
「ならそれでいいんじゃない。もし仮に戻ったら好きな人が選択肢に入るんだし。」
「そ、そんなものなのかな……。」
経験も無ければ免疫もゼロなのですぐにその気になるのは分かっていたものの、男も思い切った事をしたもんだ。
さく姉も、あれこれ考え駆け引きを行うより直感で決めた方がいいだろうから、これで良かったのかもしれない。
女の良し悪しは男で決まると言われるが、相手も気が早いが悪い奴ではなさそうだし。
さく姉の事は前から少し気になっていたが、やはり痩せたのがきっかけであるらしい。
お腹チラチラと気になられてたらしいけど……デブームが来てるのだろうか?
痩せてスタイリッシュな身体よりも、こう妙なだらしなさが見え隠れするとそそる気持ちは分からなくもない。
身体もお目当てなら初体験も早そうだ――間に合えばの話だが。
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それから三か月が過ぎた――
「う、うぅ……あの努力は一体……。」
「遅かれ早かれこうなると思ってた。」
さく姉、めでたく
保科って人とお付き合いを始めて半月ぐらいだろうか、彼もさく姉の異変に薄々気づき始めていたのだろう。
あの日以降から全く運動していない、デートで食う飲む、夜遅くまで起きるの不健康ガールに逆戻りしたのだから。
デブは痩せても元に戻りやすいのだ。なので痩せたと安心して努力を怠ってはならない。
それにこの方、受験勉強の出遅れを取り戻すのに追い詰められて更に食った結果……現在の体重――72kgとなった。
思いのほか早くに兆しが出てきたので初エッチ出来ずじまいだし――。
「ふ、フラるし……好きな人は受験勉強で忙しくてメールできないって……うぅぅ……。」
「受験勉強でどうせ元に戻るって分かってたから。
よかったじゃん、努力したら成し遂げられるってだけ分かって。
受験終わったら大学デビュー目指してダイエットすれば、夏までに彼氏、初エッチからの学生結婚もあり得ると思うよ。」
「ほ、本当――!? じゃ、じゃあ合格できるように頑張るッ!!」
これで受験勉強も本気で取り組む。
ああ、我が姉ながら何と扱いやすい単純な人なのであろう――。
まぁ、結婚は大げさにしろ大学デビューぐらいは行けると思う。
お試し程度とは言え付き合う事を経験したし、次は落ち着いて判断できるはずだ。
……秋ぐらいに80kgオーバーになってその彼氏を泣かせる事になるだろうが。
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