雪の日の道

ジェネシス

雪の日の道

「わぁ〜!雪だ〜!」

「俺達の愛を祝福しているかのようだぜ。」

「……! あなた!」






「なんつードラマやってんのか。」


 今日は1月半ば。とても寒い時期だ。

 そんな中俺は今、テレビで夜ご飯を食べながらテレビドラマを見ていた。

 舞台は東京のようだ。なぜわかるか。東京タワーが見えているからだ。


「ハッ。東京で積もる雪なんざ、グチョグチョでとてもじゃないがロマンティックからは遠く離れてるぞ。」


 そんな事を独りごちながら、一人で食べる夕飯。寂しいものだ。


『こうして二人は永遠の愛を誓い合うのだった。』


 テレビではそんなナレーションが入り、エンディングに入るところだった。


「ようやく終わったかこの駄作。」


 そう悪態をつきながら最後の一口を口に入れる。やはり、食卓に向かっているのは俺一人だ。

 両親はいま出張に出ていて不在だ。ペットも飼っていない。

 この家にいるのはたった一人、俺だけで、他の生物は全く存在しない。



 3流ドラマの次はニュースのようだ。

 そのニュースは俺に衝撃を与えた。



『お天気情報。本日未明より、東京の雨は雪に変わり、明日の朝には雪が積もるでしょう。』


 ……なん、だと!?


『防寒などの対策をすると良いでしょう。』


 やはり夢なんかではないようだ。


「明日雪か……! しかも積もる!」


 やっぱり雪が積もるかもしれないというのは、わくわくするものだ。しかも、嬉しいのはそれだけではない。


「明日学校休みになりますように!」


 学校が休みになる可能性があるのだ。雪の中、陽菜と何処かに出掛けて、ロマンティックに……


 と、そこまで想像してふと気づく。


「そうだ。ここ、東京なんだ……。」


 先ほど自分で言ったように、東京の雪はロマンティックという言葉からは程遠い、グチョグチョになった氷水だ。


「まず、誘う勇気が出るかどうかだな。」


 自分でそう言って悲しくなったので、俺はテレビを消し、すでに空になった食器を片付ける。


 明日の用意とやらもそこそこに、俺は床についた。

 きちんとてるてる坊主を(逆さに)吊るすことも忘れない。


 両親は、やはり帰ってこないそうなので、一人で寝る。


「おやすみなさ〜い。」


 窓の外は、すでに雪が振り始めていた。











 次の日

 俺はいつもより明るい外の光で目覚めた。


「ん……。」


寝坊したかと思い、時計を確認する。時計は7時をさしていた。


「まだ7時だぞ? なんでこんなに明るいんだ……?」


 その原因を調べるべく、カーテンを開ける。


「わぁ……。」


 昨日言った俺の台詞とはことごとく外れた、とても綺麗な白銀の世界が広がっていた。


「すげえ……。」


 と、そこでケータイにメールの着信が来ていることに気づく。


「ん? 母親から……。」



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優太へ。


学校からメールよ〜。

本日休みだって〜。

よかったね〜。陽菜さんと遊びに行けば〜?(笑)


母親より。


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 母さん、余計なお世話だ。

 そんな簡単に誘えるなら苦労しねえよ。じゃなくて。


 と、そんな事より待ちに待った休校だ。


「うーん、どーすっかなー?」


 こういう時の暇潰しという名のゲームは、すでにクリアしている。小説も漫画も昨日読破してしまった。


 やっぱり陽菜誘ってどっか行くか……?

 暇だからな。仕方ない。これは仕方ないことなんだ。

 そう自分に言い聞かせながら、ケータイ電話に手を伸ば……したところで、電話が鳴った。


「ったく、誰だ? って陽菜か。」


 丁度いい。ついでにさり気なく誘ってみよう。


「おう陽菜か? どうした?」

『ねえ優太。今日休みだから、どっか行かない?』


 なんと、向こうから誘ってくるとは。高鳴る胸を抑えつつ、声が震えないように返事をする。


「おう。いいぜ。」

『よかった〜!じゃあ待っててね!』

 ブツッ


 そして電話が切れる。


 そして数分後。


──ピンポーン


 インターホンが鳴り響いた。


「……あれ? 早くない?」


 ここから陽菜の家まで数分はかかるぞ。まるで既にいつでも家から出れるように準備していたような……。まあ、どうでもいいか。俺も既に準備できてるし。

 コートを着て外に出る。


「悪い、遅くなった。」

「ううん。全然待ってないよ。」


 そこにいた陽菜は……厚着しているのだろう。すごくモコモコしていた。

 なぜか、いつもよりかわいく感じる。なぜだ?

 あちらもじっとこちらを見つめてくる。と、こういつまでも見つめ合うわけにはいかないので、


「じゃあ行こうか。」


 と、こちらから提案した。

 後はどちらからともなく、歩き始める。




 それからの時間はとても早く感じた。

 ショッピングモールで買い物したり、服屋で待たされたり、ファミレスでご飯食べたりと、様々なことをした。


 それはもう、疾風の様な早さだった。



 そして空は赤く染まってゆき、あっという間に暗くなる。


 夕飯を食べ終えた俺達。そろそろ時間だ。もう少し、時間が欲しかったな……。そう考えていると陽菜がこう言ってきた。


「ねえ、これから行きたいところがあるんだけど、いい?」


 断る理由がない。速攻で首を縦に振った。そして俺は陽菜の後をついていく。

 どのくらい歩いただろうか。陽菜が振り向いて


「ここよ。」


 と言った。俺達は今、夜景が綺麗と言われるスポットに来ていた。周りはカップリだらけだ。俺達もそんな風に……


(まあ、俺達付き合ってないからカップルじゃないんだけどな。)


 そう考えて、そんな邪念を払う。


 夜景はとても綺麗だった。雪にキラキラと反射する光が、とても幻想的で、いつも以上に綺麗だった。


 そして、どちらからとも無くお互いに顔を合わせる。

 そして、陽菜と目があった。

 絡み合う視線。


「……。」

「……。」


 永遠のような沈黙も心地良い。

 こんな時間が永遠に続いて欲しい。そう考えるも、しかし終わりは突然に訪れる。

 ここで、陽菜が口を開いたのだ。


「ゆ、優太!」

「なんだ?」


 こころなしか陽菜の顔が赤い気がする。


「私……私!」


 ……! これは……!


「優太の事が……!」




























 そこで俺は目が覚めた。

 普段より暗い外。まあ、曇ってるからしょうがないな。

 カーテンを開けると、東京の雪、アスファルトで半分溶けてグチョグチョになった雪が積もっていた。


「だよね〜……。」


 先程見た夢を、夢だった事を残念に感じつつメールを見る。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


優太へ。


学校からメールよ〜。

授業開始一時間遅らせるってさ〜。

お疲れ様〜。がんばってね〜。


母親より。


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「……学校、休みじゃないのかよ……。」


 まあ、仕方が無い。

 朝ごはんを作って手早く食べる。

 食べ終えて制服に着替え、自室に戻る


 ベッドに寝転がりながら、


「はあ……夢とは全く違う……。幸せだったなぁ……。」


 と呟いた時


──ピンポーン


 と、チャイムが鳴った。


(なんだ? 今度は近所のオバサンってとこか?)


 夢とは違うんだから、そんなところだろう。そう思いながら扉を開く。そこにいたのは……


「おはよ、優太。感謝しなさい。迎えに来てやったわよ。」


 制服を着て、その上からコートを羽織る陽菜がいた。

 手を腰に当てている。


「なに呆けてんのよ。さっさと行くわよ。徒歩とはいえ、雪で時間かかるんだから。」


 陽菜が来ることは本当だったのか。態度がいろいろと違うけどな。


「ほらさっさとする! 40秒!」

「! あ、すまん。来てくれてありがとな。」

「ば、バカじゃないの!? いいから、しゃ……さっさと用意して来て!」


 あ、お礼言ったらそっぽ向かれちゃった……。


 急いで支度して外に出る。


「遅い! 41秒!」


 理不尽だ!? そして陽菜に脛を蹴られる。


「イッテ!? あにすんだよ!」

「遅れた罰よ!」


 あんまりだろう……。

 そして俺たちは学校へと歩き始める。

 雪はやはりグチョグチョだ。靴の中に雪が入って気持ち悪い。しかも、学校はあるし陽菜の性格も、よく考えたらあんな素直なわけがないし、第一、出発してから夕飯直後までの記憶が曖昧だし、とにかく、やはり現実は夢の世界とはかけ離れている。 


 ……でもまあ、


「(これだけでも十分幸せだな)。」

「? 何ブツブツ言ってんのよ?」

「何でもない。」

「?? 変なの。」


 陽菜が家まで来てくれたことは、素直に喜ぶところなのだろう。

 グチョグチョでただ冷たい道も、今までの雪の日よりはすこし、暖かく感じた。


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