第56話 夢から覚めて 後編

「アレは昔タダシ達と倒した悪夢のボスの体の一部が浄化されずの残ったものが力を取り戻したものだったんです」


「え…じゃあ父さん達がしっかりそれを浄化していれば…」


「はい…メアマスターを生んだのは実は私達のミスのせいだったんです。巻き込んでしまって本当に申し訳ありません」


アサウェルをそう言ってオレに深々と頭を下げた。

あまりにアサウェルが責任を感じていたっぽいのでオレは焦って取り繕う。


「いや、いいよいいよ!誰にだってミスはあるものだし!それにもう終わった事だし!」


この言葉を受けたアサウェルは顔を上げてホッとしたような顔をした。よっぽどその事が心の重荷になっていたんだろうな。


でもこれで何で父さんがメアマスターを倒すのに頑張ったかその理由も分かった気がした。この世界の事もあったのかもだけど、きっとこの騒動が自分のミスのせいだって分かっていたからなんだ。


「ふあぁ~あ」


緊張が一気に解けたオレに強烈な眠気が襲ってきた。あれれ…もう現実世界で目が覚める時間?何だかちょっと早いような…。


「今日はもうじっくりと眠ってください…大活躍をしてかなり疲労がたまっているはずですから」


「こんなのみんなの苦労に比べたら大した事ないよ」


オレはそう言って父さんの側でキャピキャピはしゃいでいるレイの方を見た。その時オレに目に映ったのはぐっすり眠っている彼女の姿…。

あれ?レイ、もう先に眠っちゃったんだ。彼女の眠っている姿を見たらオレもこの眠気に耐えられなくなって来た。


「アサウェル…ごめん、やっぱりちょっと眠るよ」


「はい、おやすみなさいませ」


そうしてオレは深い眠りに落ちていった。



チチチ…チチチ…。


「ふあ~あ…」


現実世界の朝…いつもなら多少の疲労感を覚えながら目が覚めるのに今朝は意外に意識がスッキリしていた。やっぱり…今日は夢の世界でギリギリまで起きてはいなかったんだ。

目覚めた後はいつもの作業で支度を済ませて朝食へ。そこにはいつもの様に優しく笑う母さんの姿があった。


「おはよう、よく眠れた?」


「母さん、オレやったよ!夢の世界を救えた!」


オレは早速毎日夢の話を楽しみにしている母さんに戦勝報告をした。この報告を聞いて母さんもすごく喜んでくれた。


「まぁ!お疲れ様!よく頑張ったね」


「父さんも助かったよ!しばらくは向こうの世界にいるみたいだけど」


「お手柄ね!今夜はごちそう作らなくちゃ!」


「母さんのごちそう?やった!」


お母さんのごちそうと言えばオレの好きなものだ。シチューかな?カレーかな?ハンバーグかな?…好みが子供っぽいとか言わないように(汗)。


「楽しみにしててね♪」


母さんに褒められてオレは秒な自信を持つ事が出来た。よし!学校生活もこの調子で頑張るぞ!


自信を持ったオレは胸を張って高校に登校した。ここまで心が軽くなったのはいつ以来だろう。


ガラッ!


「みんな!おはよう!」


意気揚々とオレは教室のドアを開ける。さあ、いつもと違うオレにみんな驚くがいい!


…でも現実は厳しい。

いくら勢い良くドアを開けたってそれがオレだって分かるとみんなすぐに自分達の話題に戻っていった。まぁね…分かってたけどね。


「ヒロト、一体どうした?らしくないじゃん」


「今日はそんな気分だったんだよ」


オレに声を掛けてくれるのはやっぱりヲタ友だけだった。うう…お前らがいるだけオレは救われてるよ…。これからも一生の友達でいてくれよ。


「ふぅん…知ってる?今日転校生が来るって…」


オレの知らない間に何か知らないけどいきなりフラグが立っていた。

しかし引越しシーズンでも何でもないこんな時期に転校生だって?


「え?知らない…。もしかしてそれでこんなにクラスが浮足立ってるの?」


「多分そうだと思うよ…一体どんな転校生だろうな」


転校生か…オレは幸か不幸か今までの学校生活で転校生という存在に遭遇した事がなかった。もう転校生なんて言うのは実在しない現象のようにすら思っていたところだ。だから転校生と聞いても二次元のありがちなお約束のキャラくらいしか思い浮かべられないでいた。


「多分オレ達の想像は軽く裏切られれるに違いないw」


「だよなー」


そんな訳でオレ達はそう言って笑いあった。夢の世界を救う重圧から開放されたオレは普段以上に陽気になっていた。

でもこの違いを分かってくれるのは現実世界ではこの友達くらいのものだろうな。


やがてチャイムが鳴り先生が教室に入ってくる。教室に先生とよく見慣れた見慣れない制服を着た生徒を連れて。そう、今日オレのクラスに新しく入ってきた転校生とは…。


「初めまして!天宮レイと言います!これからよろしくお願いしますね♪」


こんな偶然があっていいんだろうか。転入してきたレイは一瞬でクラスのみんなの心を掴んでいた。そりゃ確かに彼女は見た目結構可愛いしね。

だけどオレにとっては今一番現実を知られたくない相手でもあった。


教室を見回していたレイはすぐにオレの存在に気付いた。


「あれ?ヒロト?今日から同じクラスだなんてすごい偶然ね!」


あの…彼女のこの言葉、やたらわざとらしいような気がするんですが…(汗)。

もしかしてこれって何か裏が?


「や、やあ…」


うう…すごい気まずい…。いきなり転校生と知り合いとかどんなフラグだよ…(汗)。

このやり取りのせいで一気にクラス中が大騒ぎになった。オレはレイとの関係を聞かれまくるし誤魔化すのも大変だった。一体どんな運命の悪戯だって言うんだ…。


ああ…現実世界のヘタレなオレを彼女にだけには知られたくなかったのに。なのに何で現実世界でも一緒になるんだ…(汗)。しかも偶然にもレイはオレの隣の席に…え?何で? 


「これでリアルでも一緒だね」


「ああもう…意味が分からないよ」


オレは誰に話すでもなくつぶやいた。するとそのつぶやきを聞いた彼女が種明かしをしてくれた。


「夢が叶うお守りをね、タダシ様から貰ったんだ♪あっちの世界のグッズだから効果は抜群だって」


「父さん…何で…」


この話を聞いてオレは頭を抱えた。父さんは何を考えているんだよ…。


「夢の世界を救ったお礼だって。正当な報酬よ!」


つまり夢の世界のお守りが現実の世界で効果を発揮したって事か。それって一体どう言う理屈なんだよ…。

そもそも何故レイはそのお守りを使ってまでわざわざオレのもとになんて…。


「君はそれで良かったの?…現実のオレはすっごいヘタレだよ…」


「いいの!私がヒロトに会いたかったんだから」


「なんだよそれ…」


「夢の世界だけじゃなくてリアルでのヒロトも知りたくなったって訳」


そう言ってレイはいたずらっぽくオレに笑いかける。…彼女の行動原理がオレにはよく分からない。

夢の世界で会ってるんだから現実まで会う必要なんてないじゃないか。彼女ってもしかしてネットで仲良くなるとすぐに実際に会いたくなるようなそんなキャラ?

そりゃ夢の世界と現実でキャラが違わないなら会っても問題ないって思えるとも思うだろうけど…。


「オレは…知られたくなかったよ…」


「いいじゃない、ヒロトがどんなにヘタレでも私は気にしないからさ。君の本当の強さはもう知ってるし」


「な、ならいいけど…」


レイはどうやらオレの事を変に誤解している…その誤解はまぁ嬉しいんだけど…。

しかしオレは頭を抱えてしまった。唯一の友であるヲタ友達には裏切り者扱いされてしまってもう話もしてくれそうにない。これからオレの学校生活は一体どうなってしまうんだ…。

さっきまでのオレの平穏な日常を返してくれーっ!


その後も色々質問攻めに合うし友達からは縁を切られるしで散々な一日がようやく終わった。オレはほとほと疲れ果てて帰ってすぐに自室のベッドに倒れ込む。母さんの夕食に呼ぶ声も聞こえないほどにオレは深い眠りに落ちていった。

そして…。


「すみません、またタダシがいなくなってしまいました…」

 

夢の世界に入って早々アサウェルがオレに助けを求めて来た。


「また?今度は何?」


「それが今度は全く手がかりがないんです…」


そう言ったアサウェルはすごく困った顔をしていた。これはもしかしたらただ事じゃないのかも知れない。


「え?それは一刻も早くタダシ様を探し出さないと!」


気が付くといつの間にかレイもオレのすぐ側にいた。現実世界ではまだ気まずいままだけどこっちの世界ではやっぱりレイは頼れる相棒だった。彼女が側にいるだけでオレ達の安心感は何倍にも膨らんだ。


「二人共お願いです!どうか私と一緒に…」


アサウェルが頭を下げてオレたちに協力を頼む。そんなのオレ達が拒否する理由なんて何もないじゃないか。


「勿論!」


「当然でしょ!」


そう言う訳でオレ達はまた新たな旅を続ける事になった。あの父さんの事だから失踪していたって命の危険とかそんな状況にはなっていないと思う。だから本当はそんなに心配って訳じゃないんだ。

それより今はまたこの三人で旅が出来る事が嬉しかった。


さあ、今度は一体どんな冒険が待ち受けているんだろう。それを考えるだけでオレの胸のワクワクは止まらなかった。


現実世界のあれこれはまた後でゆっくり時間をかけてどうにかしていこう。

なぁに、時間をかければ何事も収まるところに収まっていくもんだよ、多分。



(おしまい)

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