第9章 エピローグ

第55話 夢から覚めて 前編

「これで…終わったんだよね?」


「ああ…おかげで夢の世界は救われた…お前のお陰でな」


父さんはそう言ってオレの頭を撫でてくれた。その行為が何だか少しくすぐったかった。


「タダシ様!私も!」


レイも便乗して父さんに頭を撫でてもらっている。あんな嬉しそうなレイの顔は初めて見るかも。


「父さんはこれからどうするの?」


「しばらくはこっちで復興の手伝いをするよ…それに冒険に出た事になってるしな。少しの間不在でもバレんだろ?」


父さんはそう言っていたずらっぽく笑った。全く、いつまでもそう言うところは変わらないな。


「や、もう三ヶ月位音信不通なんだけど?」


「だからもう少し伸びたって変わらないって話だ」


全く、何て理屈だよ。洗脳から解けた父さんはオレの知っている父さんだった。

いつもの父さんが戻って来た事が嬉しくなって思わずオレは笑っていた。

つられてみんなも笑った。


あれからメアシアンはみんな正気に戻って普通の生活に戻っていった。メアマスター以外の敵はみんなヤツに洗脳されていただけだったんだ。

展開的にちょっとお約束過ぎるとは思ったけど、そう言う事なんだから仕方ない。

極北のあの例えようのないような空模様も悪夢の根源が消滅した事で本来の空の色を取り戻していた。

ゾンビの街は…あれから結局どうなったんだろう?近寄りたくないから別にあのままでもいいか。


「ふぅ…終わったんだなぁ…」


思い出せば色んな事が頭の中をよぎっていく。夢の中の世界なのにすごく濃い時間を過ごせたような気がする。

結局現実世界ではオレはまだヘタレのままだ。夢の中だから強くはなれたけど…結局は夢なんだなって今になって思う。


「あなたはよく頑張ってくれました。私の誇りです」


「アサウェル…」


平和になった夢の世界を見ながら感慨に耽るオレの側にアサウェルがやって来た。

この旅は結局彼に頼ってばっかりだったな…。


「隣、座っていいですか」


そう言ってアサウェルはオレの隣りに座った。そう、全ては彼と出会ったのが始まりだった。

戦いが終わってやっとアサウェルと普通の話が出来る。今頃になって彼と過ごした日々が走馬灯のようにオレの頭の中を駆け巡った。


「初めてアサウェルと会ったのが昨日の事のようだよ」


「長いようで短い日々でしたね」


「あの頃は何も出来なくてさ…いきなり失望させちゃったよね」


「でもここまで立派になりました…あなたはいい弟子でしたよ」


アサウェルはそう言って笑う。その顔は今まで見たどの顔よりキラキラと輝いて見えた。きっとこれがアサウェルの本来の表情なんだろうな。 

目的も果たしたしもう彼とも会えなくなるんだろうか?

オレはそれを少し寂しく感じてアサウェルに尋ねてみる。


「また…遊びに来てもいいかな」


「勿論!大歓迎ですよ」


このアサウェルの返事がオレは嬉しかった。今度は何かのついでじゃなくて純粋にこの世界に遊びに来ようかな。

しかしよく考えてみれば根本的な疑問がオレの頭に浮かぶ。


「そういえば何でオレ、この世界に入り込めるようになったんだろう?」


「多分それは…タダシが呼んだんでしょうね」


このオレの疑問にアサウェルはそう答えた。この夢の中に入れる能力は母から受け継いでいたとしてその世界に入り込むきっかけになったはやっぱり父さんの力なのか。

でも、もしそれが真実なのだとしたら…。


「え…じゃあもしかして自分の力ではもうここには来れないとか?」


「最初はそうだったかも知れません…でももうあなたは自分の力でこの世界に来る事が出来るようになったんです。きっと大丈夫ですよ」


「そっか…良かった」


アサウェルのこの言葉にオレは安堵した。

しかし旅が終わって目的がなくなったのも事実な訳で…。

無意識の内にオレは愚痴のようなものをつぶやいていた。


「オレ…これからどうしたらいいのかなぁ」


「自分で考えて、悩んで…自分だけの答えを見つければいいんです。焦らずに、でも真剣に」


「そうだね…うん」


流石アサウェルの言葉は頼りになる。オレに対して彼は続いてこうも言ってくれた。


「どうか自分の未来を光に変えてくださいね」


「ありがとう」 


この言葉にオレの心は軽くなった気がした。また悩み事が出来たら一番にアサウェルに相談しよう、うん。

あ、そう言えばオレ…聞きたい事があるんだった。


「あのさ、さっき父さんの洗脳を解いてくれた時…」


「ええ」


「アレって…母さんに会ったって事なの?」


「はい、会いました」


アサウェルは即答する。そこがオレにとって謎だったんだよね。


「どうやって?母さんはもうこの世界には来れなくなったって…」


「だから、かなえさん個人の夢の中に私が出向いたんです」


「え…そんな事出来たんだ?」


「少し時間はかかりましたけどね」


なるほど…そう言う事だったんだ。この夢の世界は個人の夢より深い世界だからそこから辿れば個人の夢にも繋がっているんだ。

オレはもう一度空を見上げた。ここから見上げるこの空の上にはきっと誰かの夢がある。

そう考えるとオレは何だか不思議な気分になった。やっぱりこの世界は謎だらけだ。


あ、考えて見ればこの質問って母さんに聞いても良かったんだ。ま、いっか。

次に目が覚めたら母さんにも同じ質問をしてみようっと。


「アサウェルはこれからどうするの?」


「また同じ事が起こらないようにこの世界をパトロールしようと思っています」


「そっか…結局メアマスターって何だったんだろうね」


このオレのつぶやきに対しては少しの間沈黙が続いて…そしてアサウェルが改まって口を開いた。


「今だから話せますが…」


「ん?」

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