第4話

ルチは、空を急いで駆けました。

海は荒れ、空は雲が重く立ち込めていました。

嵐が近づいているのです。




見習い魔女が、魔女になる方法。

それは『子どもの願いを叶えること』でした。




ラーサは、父親の船を見つけたのです。




ナァ死神が、ルチに囁きます。

『せっかく魔女になったんだ。もう少しのんびりしたらいいものを』

ルチは言います。

「ようやく我が子を抱けるのに、のんびりなんてしてられないわ」

『抱けばそれで、終わってしまうぞ?』

「そんなこと」

ルチは、小さく笑いました。


「言われなくても分かってるわ」





大粒の雨が、ラーサの頬を打ち続けます。

波が船を大きく揺らし、海底に引きずり込もうとするかのようでした。


海に投げ出されてしまわないよう、ラーサは自分と船体をロープで繋ぎ、必死に船を繰りましが、嵐はいよいよ強くなり、いつ沈んでしまってもおかしくはありません。



親父と一緒の場所に沈むなら、それもまた仕方がないかな。

ラーサの心は、落ち着いていました。




今までで一番大きな波が、ラーサと船を飲み込みました。


押し寄せる波が、ラーサを海に沈めていきます。

荒れた海は冷たく、そして重たく身体を包みました。

海面がラーサの指先から遠のいてゆきます。

そして。


ラーサの意識も、ゆっくりと、海底に沈みはじめました。




不意に、誰かがラーサの手首を掴みました。

冷たく細い指が、強く強く腕を掴み身体を抱き、沈みかけたラーサを海面へと引き上げます。

海面に顔が出て、大きく息を吸い込むと、死に物狂いで漂う板切れに掴まりました。


ぼんやりとした意識の中で、ラーサは、自分に向かって優しく微笑む誰かを見たような気がしました。

でも、覚えているのはそこまででした。




目が覚めると、そこは住み慣れた自分の家でした。

嵐が過ぎた後、ラーサは通りかかった船に助けられたのです。

幸運なことに、助けた船乗りがラーサを知っていたのでした。



ルチの気配は、もうありませんでした。

どこにも。







小さな魔女と迷子の少年のお話は、これでお終いです。

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小さな魔女と迷子の少年 はむちゅ @hamuchu

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