誰でもいいわけじゃない

蜜缶(みかん)

誰でもいいわけじゃない(完)

初めて好きになった人は男だった。



何かの間違いだと言い聞かせてなんとか忘れて、そして新しい恋をして…次の相手はまたまた男だった。

そうしてオレはやっと自分の性癖を理解する。オレはいわゆる、ゲイというヤツなのだ。


世間ではゲイが少数派だと知っているし、まだそこまで理解されてないことをオレはよく理解していたので、親にも親友にも、誰にも話すことなく、ひっそりと胸に秘めていた。

…というか、今好きなのが親友だから言えるはずがないんだけど。


カッコいいわけでもなんでもない平凡なオレは、異性ですら恋愛対象にさせてもらえてないのだから、同性に友達以上に思ってもらえるなんて夢のまた夢の話だと思っていた。

だから、一生誰にも自分の性癖を打ち明けず、1人で生きていくんだろうなとずっとそう思っていたのだ。そう、今日までは。





「オレ、ずっと日向のこと好きだったんだ。もしよかったら、付き合ってほしいと思ってる」



オレは今人生で初めて、男に告白されている。

親友の秋人と、その友達・松原武と飲みに行った帰り、帰り道が一緒だということで松原と2人きりになった。そしてなぜだか、松原に告白をされたのだ。


しかも話を聞くと松原は平凡なオレになぜか一目惚れをして、アプローチすべくオレと親友の秋人に相談し、なんとか今日にたどり着いたそうだ。

(よりにもよって秋人に相談とか…)

秋人がオレと松原の恋を応援したのなら、オレは告るつもりはなかったのに、強制的に秋人に振られたようなもんだ。とんだとばっちりだ。


オレが相当絶望的な顔をしていたのか、それとも男相手に告白したからなのか。松原は不安げに

「ごめん…男に告白されるとか…気持ち悪かったかな」

と呟いたが、酔っているのか、告白したせいか。その顔は少し赤いままだ。



「…いや、そうじゃない…けど」

そうじゃ、ない。

秋人に告られるのであればどれだけ嬉しかったか。

男に告られるとか、本当ならどれだけ待ち望んだか。


…だけど男に告られるなら誰でもよかったわけじゃない。

オレは決して、松原に告られたかったわけではないのだ。

もし松原が秋人に相談さえしていなければ、そこまで嫌じゃなかったかもしれないが。

でもそれを差し引いても松原は…


「…別に松原が男からどうってことはない。…でも正直言って、松原のことはタイプじゃない。」


そう、全然タイプじゃないのだ。



オレは、やや小柄で元気で、なんか可愛げがあって守ってあげたくなるようなタイプが好きだ。

わざわざタイプで選んでいるつもりはないが、秋人も含め、今まで好きになってきた人がみんなそういうタイプだったから、そうなんだと思っている。

…だけど松原はというと、イケメンだけど可愛げがなくて凛々しいし、平均身長なオレよりもさらに10cmは高いし、大きいせいかのそのそしてるし、どうみても守られるというより守ってやるタイプに見える。

(外見で選んでるわけではないけど、どうみてもはずれすぎだろ…)



「そ、そっか…でも男同士無理じゃないなら、オレ、日向の傍にいてもいいかな。日向とちゃんと話すのは今日が初めてだし、オレはもっと日向のこと知りたいし、日向にオレのことも知ってもらいたい。」

松原はもごもごしながらも、笑顔のままオレの目をまっすぐ見つめて言う。


(…それって 友達としてっていうより、お友達からってことだよな。)

もごもごしてるくせに、松原はめっちゃポジティブシンキングなようだ。

人は見かけじゃないのはわかっているけど、それでも松原を好きになれる自信がオレにはない。

そもそもコイツのおかげでオレはしなくてもいい失恋をしてしまったわけだし、恨んでしまってもおかしくないくらいだ。

…ここははっきり言ってやるべきだろう。


「…友達としてならいいけど、恋愛対象とか無理だから。オレも男が好きだけど、松原とは正反対の小柄で守ってあげたくなるようなタイプが好きなの。多分、ポジションも松原と一緒だし、ホント無理だから。」

そう、はっきりきっぱり宣言してやった。

…するとどうだ。さっきまで笑顔でめっちゃポジディブだった松原が



「…っ」

泣き始めてしまった…。



「え…ちょ、泣くなよ…男だろ?だいたいお前イケメンなんだから、オレなんかじゃなくても、いい男いくらでも寄ってくるだろ?」

そんなオレの言葉に、松原は声を震わせた。


「…だって、だって…。オレは日向が好きなんだ。男なら誰でもいいわけじゃない。日向がいいっ…日向に好かれないなら、イケメンだとか何の意味もないっ」

「…っ」

誰もいいわけじゃない。

自分もそう、思ってたくせに…松原に対して酷いことを言ってしまった。

背中をさすろうと思わず伸ばした手が、無意識に空中で止まる。


「…一目惚れなんて初めてで、ずっと傍にいきたいって思ってたんだ。今日、秋人に飲み会開いてもらって、やっと話しできて…そしたら見てる時よりももっと好きになった…けど…初恋は実らないって、やっぱり本当なんかな」


「え…初恋?」


「…うん。人を好きになるのって初めてで…すごい突っ走っちゃった。失恋てこんなに辛いんだね」

そう涙を流しながらほほ笑む松原は、ひどく儚く見えた。



「…ばかだなぁ」

そう言って、オレは松原の頭にぽん と手を伸ばす。






オレはゲイで、男が好きだ。

だけど男なら誰でもいいわけじゃない。


…誰でもいいわけじゃない。


なのに今とても、目の前にいる好みとは正反対のこのどでかい男を

無性に愛おしく、抱きしめたいと思ってしまう自分はなんなんだろうか。





終   2014.11.16


(ほだされ平凡×ヘタレイケメン)

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