始まり


 世は戦乱の中。

石油に代わる新たなエネルギーをアメリカが発見したと発表したことが発端となり、少量で莫大なエネルギーを各国は欲しがり、少しずつ歯車は狂い始めた。

戦争が各地で起こり、日本もその余波を受けてしまっている。

 犯罪件数は比べ物にならない程に増え、未解決事件も比例するように増えている。

そしてついに、「大都市大爆発」事件は起こった。福岡、大阪、愛知、東京、北海道で同時に大爆発が起こり、日本の機能は停止した。

 無理もない。 爆発が起きた付近は広範囲が更地になっており、今も尚立ち入り禁止区域となっている。 東京はほぼ壊滅状態の為、 被害があまりなく海に囲まれている沖縄と四国二つを仮の首都として怪しい人物がいないか厳重に毎日管理をし仮首都を爆破されないように警戒をしながら復興を目指している。


 ーそんな世の中で、治安が悪くなっていることは理解している、が。


「まじかよ……」


 島から福岡へ到着し、福岡から四国の船の中で不覚にも少し居眠りをしてしまい、荷物を盗まれることになるとは予想外である。

恨めしい気持ちはあるが、自分の注意不足も否めないので何とも言えない複雑な心境だ。


 港の人に地図をもらい、記憶を頼りに歩くことにした。


「確か……港からそんなに遠くなかったはずなんだ」


 記憶が正しければ、鳩羽港はとばこうから西に進んだ貝塚森かいづかもりだったはずで、西に真っすぐ進んでいるのだが。


「周り森だらけでいまいちこの地図通りに進めているのかよく分からねえな、くそっ!」


 今歩いている場所は森などが多く、人も見かけなくなってきた。

この夜に、この周辺を歩くのは得策とは言えない。

 予定では夕方から夜にかけて到着するはずであったが、既に夕方。 細かい道は覚えているはずもなく、泪は項垂れる。 先程から嫌になるほど主張している腹をさすりながら、ため息をついた。


 -そして、夜。

泪は今夜は無理だと悟り、木に背中を預けて座り込む。 どうせ取られるものも残っていやしない。 今日はここで野宿だと腹をくくり、目を閉じるのだった。






















「泪っ! あっ! 離して!」


ヘレンの身体から力は抜け、大人しく腕に抱えられた。


ー行ってしまうー


力の抜けているヘレンは肩に担がれ、運ばれていく。


ー待ってくれ、連れて行かないでくれー


ヘレンを連れて行くあいつが歩くたびに、ヘレンの身体がゆらゆら揺れている。


ー頼むから、頼むからヘレンをー


ゆらゆら揺れているのは、ヘレンの身体なのか、自身の視界なのか。

もう俺にはー


「……て、起きなさいったら!」


「って!!」


 パンっ! という音とともに一気に開けた視界は45度回転し、少し唖然となり、少しずつ自分が木を背にして寝ていたことを思い出せていた。

何も言葉を発しないことにじれたのか、その音の元凶を作ったであろう人物が視界に乗り込んできた。


「なんだ、しっかり起きてるじゃないの」


痛む頬が目の前で呑気な顔でこちらを見ている女に叩かれたということを理解し、腹が立ったがそれよりも大事なことがある訳で。


「ちょっと、あんた大丈夫? なんとか言いなさいよ」


「腹、減った……」


「え? ちょっとあんた、あんた!?」


泪の意識は再び、暗闇の中へと沈んでいった。





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人魚の雫 さくら @sakurako

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