第2話食事
タスは奴の死亡を確認すると、岩に腰かけている俺の方にやって来た。
「とりあえず狩りは成功だが、ナナチ大丈夫か?」
タスは俺の腕を痛ましそうに見ている。右の裾は穴が開き所々血に染まっており、奴の唾液と思わしきものと混ざり余計気分が悪くなる状態だった。俺も裾をまくりあげ自分の右腕を確認する。右腕にいくつか小さな空があいていた。狩りの間は怖くて見れなかったが、思ったよりはましだった。牙が入りこんだりはしていない。
「大丈夫じゃない。早く消毒かなんかたの・・・・・・痛っ!!」溜まっていた涙が傷口に落ちてきた。涙のおかげで血がさらに染みる。
タスは腰にある鞄の中に手を突っ込む。がさごそと様々なものがぶつかっている。俺は右手をゆっくりと上げようとするがうまく上がらない。左手でつかみ無理やり上げる。そして膝の上に載せボトルから水をかける。水が当たるたびに傷口が熱くなる。
「とりあえず、涙を拭け。すまないが消毒液はなさそうだ」
タスはそういうと俺にハンカチを渡して来た。俺はそれを受取ろうと手を伸ばすが、ボトルを落とし水をひっかける。
「水無駄にしたな」ラフは笑った。俺も笑いハンカチを受け取る。
ハンカチで目を拭くとべたついた感覚が来る。まだまだ目が見難い。俺は落ちたボトルを拾う。ボトルを顔まで持ってくるが2、3滴落ちたかと思うと空っぽになった。俺は目をこすり無理やり目を開ける。
「お前、そんなに目が爛々としてたか?」
「さっきこすったせいでそう見えるだけだろ」
「そうか。ならそろそろあいつを持って帰ろう」
ラフはさっと返事をすると奴の方に顔を向ける。動かなくなった奴をみると思った以上に小さく感じた。全長150cmといったところだろうか?俺は傷口に目をやる。自分たちで狩りをするようになってから、初めての傷だった。
「思ったより小さかったんだな。これで足りるかな?」
「これくらいあれば十分だろう。少なくとも今日はな」
近いうちに街を見つけなければ狩りをしなければならないことは確定だった。
「俺たちを受け入れてくれる街、見つかるかな」
「わからない。でも探すしかない。故郷のために」
俺たちの故郷は食料難に陥いっている。もともと山の中ににある農業中心の辺境の街だったため外部との連絡手段はなかった。そのために俺たちは今旅をしている。俺たちや、故郷の人々がゆっくりと暮らせるような街を。ちょっと前までは食料に困らなかったが寒波のせいで穀物が得られなくなった。
今でも故郷は食料難だろうか?もしかしたら案外俺たちの方がいい暮らしをしているのかもしれない。そう思えてきた。
「とりあえずある程度さばいて運ぶぞ。俺一人では持てない」タスはそういうと剣を持ち奴の腹を開く。俺も急いで傷口を止め、タスの方に向かっていた。すでにタスは臓器を取り始めている。俺は血をできるだけよけながらタスの近くまで行く。地面に転がっている臓器に消化器官にあたる部分は見つからなかった。
「こいつ。妖精だったんだな。」
「そうだな。また妖精を食べることになったな。ナナイ、お前は嫌か?」
「いやもクソもないさ。食わなければいけないそれだけだよ。」
俺たちが妖精を見分けるための特徴。その一つが消化器官だ。妖精は消化器官を持たない。彼らは食事を必要としない。かといって植物のように自らエネルギーを作ることもない。どこでも住める生き物。それゆえにもっとも広く分布されている生物でもある。正直妖精の肉は好きではなかった。味がしないというか、なんというのか。栄養となる部分がないのだ。それでも俺たちは食べなければいけないのだが。
「とりあえず中身は出しといた。どうする?このまま持って帰るか?」
「そうだなー」俺は今腕をけがしている。タス一人でも持てなくもないが、それでも1km先の仲間たちにこれを運んでいくとなると重労働だ。
「タス。ロープ持ってきてる?」
「あるが2m程度だ。引っ張て持っていくか?」
「いや。こいつを見つけた場所に枯れ木があった。木の棒を使って持って帰ろう」
周りをぐっると見渡すと黒い線のようなものが見えた。望遠鏡を手に取り状態を軽く確認する。パッと見細いものが多いがいくつか太いものがある。俺は持っていた望遠鏡をタスに渡す。タスもあれなら大丈夫だろうと言ってきた。望遠鏡を鞄に入れ移動しようとする。がタスに止められた。
「お前は少し休んでくれ。こいつを運ぶにはお前が必要だ。これを見張る奴もいる」そういってタスはさばかれた奴に目をやる。
「流石にもう死んでいるだろ。見張る必要はないだろ。この辺りは他の生物もいないだろ」
「まぁそうだな。こいつが襲ってきた理由も縄張りを侵されたか、もともと獰猛かどっちかだろう。念のためだ」
念のためといわれると反論がしにくい。俺はおとなしく休むことにした。タスは剣を肩ににかけなおすと枯れ木の方に向かって歩いていく。
だがいざ休むといっても暇を持て余すだけだった。俺は手近に顔を映せるものがないか探り始める。鏡なんて持ってきた記憶はない。俺は仕方がなく短剣を手に取る。いちよこいつでも見れるだろう。顔を見ると確かに目が爛々としていた。目を掻いたせいだといいのだが。俺は短剣を収める。
上を見上げると鳥たちがぐるぐるとまわっている。鳥を見たのは久々な気がする。故郷の山を下りているときは多少は見かけたんだけどなー。それでも食料のため乱獲をし昔より少なかったけど。ことあるたびに故郷のことを思い出している。早く帰りたいという気持ちがこころのどこかに残っている。
ファンタジー食物連鎖 ガラスの廊下 @Glazed_hallway
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