ファンタジー食物連鎖

ガラスの廊下

第1話狩り

 岩かげに座り、身を隠し荒れ地の方に望遠鏡を向けると得物がいた。枯れた木の向こうにブヨブヨとした体と四つの足が見える。望遠鏡を外してみれば犬のように見えなくもない。得物が枯れ木の向こうから出てきた。


 顔は犬のようだが四つの眼を持ち鋭い牙が並んでいる。犬ではなく化け物の一種であることが確定した。こんな荒れ地にいるということは食料を必要としない生物、もしくは鉱石か何かを食べる種なのだろう。


 あれが今から食べるものだと思うと正直、今日も食べなくていいのではないかと思えてくる。マントをどけ腹部をさわる。服の上から触っても、とまではいかないが、気持ちいつもよりへこんでいる気がする。待機している3人も空腹なのは明らかだ。俺は仕方がないと思いあきらめることにした。


 狩りを行うならば得物を探しているであろう、もう一人を呼ばねばいけない。俺は望遠鏡を片づけ、仲間の方に向かおうと岩陰から身をだした。


 咆哮が聞こえた。気付かれてしまった。俺は慌ててボーガンに矢を詰める。目が四つあるなら視覚に特化していることに気付かない自分に間抜けさを感じる。慌てて信号弾を打つと、緑の煙が上がっていく。

 こんなだだっ広い場所なら仲間にも見えているだろう。仲間が来るまで踏ん張るのみだ。


 つがえたボーガンを奴に向ける。奴はこちらに向かって走ってきている。が、足は犬より速くないようだ。もちろん人より早いが。射程距離まではまだ10秒はある。あのブヨブヨした体を見る限りボーガンの矢は刺さりにくい。狙うべきは目玉。

 裸眼でも見える距離まで来た。鋭い牙を見ると怖気づく。相手の目玉を見ると手が震える。俺は手の震えを必死に抑える。すでに10秒は過ぎた。目と矢をきっちし合わせる。微調整はすんだ。

 パシュッとした音がすると同時に矢が放たれた。矢は一瞬で相手の目の前まで飛んでいく。


 がぎゅううううううううううううううううううううううううううううう!!


 悲鳴が聞こえる。足が止まった。すかさず次のボーガンの矢をつがえる。決定打がないのは痛い。俺は距離を取り、もう一度眼を狙う。早く来てくれないだろか。このままでは時間稼ぎにしかならない。矢を放つ。が向こうは体を揺らし、胴体に矢は刺さる。効いてないのは明らかだった。


 奴が再び走ってきた。俺は横に回避する。同時にさっき俺がいたとこに奴が現れる。奴はすぐにこちらに体を向ける。

 鋭い牙をむき出し俺にかみついてくる。咄嗟に利き手を出してしまった。気付いた時にには俺の右手は奴の口の中にあった。


 「あがあああああああああああああああああああああああああ!!」

 ボーガンを手放し、牙は俺の肉にしっかり刺さっている。涙がにじんでくる。もっとうまくやれた。後悔に押しつぶされそうになる。

 「あああああああああああああああああ!!」

 俺は奴の目にボーガンの矢を突き立てる。今度はうまく刺さった。だが奴は俺の手を離そうとはしない。逆に歯を食いしばって俺に食い込ませてきた。更なる痛みが襲う。涙で目がよく見えない。涙をふき取る腕は涙を生んでいる。

 

俺はボーガンの矢をもう一本抜き出す。そして残ったもう一つの矢を突き刺す。今度も命中した。奴は俺の手を離すと同時に雄たけびをあげる。思わずそのうるささに耳をふさぎたくなるが、あいにく腕は動かない。

 これではボーガンをつがえられない。距離を取ろうと走るが腕がうまく振れず、距離は期待できない。


 奴は足音に気付いているのかゆっくり方向を合わせこちらに走ってくる。俺は倒れるように横に回避する。とりあえず一度岩の上に上るのがよさそうだ。俺は短剣を後ろのポケットから取り出す。そのまま腕を振り上げ鼻であろう場所に差し込む。


 奴は再び身を震わす。俺は短剣を引っこ抜くと急いで岩の方に戻る。岩の大きさは俺が座って隠れていられたからおおよそ120cmというところ。簡単に昇ってくる高さだが運よく頭をぶつけてくれるかもしれない。おれは岩の前につくと足をかけ登る。

 奴も走ってきていた。登り切ったころにはすでに奴は1mもない場所にいた。

 ガツンという音がした。おそらく頭をぶつけたのだろう。が致命傷というわけでもなさそうだ。奴は前足を岩につけるとそのまま登ってくる。だがこのまま食べられるわけではない。


 パシュッと音がすると奴が再び悲鳴を上げる。

 10mほど先にには人がいた。俺と同じようにマントをしている。味方だ。

 「流石に遅くないか。タス」

 タスと呼ばれた男はボーガンから剣に持ち替えながら答える。

「いや。すまない。探索範囲を広げすぎていた。500m離れたのは、うかつだった。次からは3人で来るべきだな」


タスは剣を構え奴の方に走りだす。奴も足音に気付きタスに向かって走りだす。鋭い牙がタスの腕めがけて歯を上下させる。奴はタスのすぐ正面まで来る。だがタスはにやりと口元をゆがませると、奴の口が開いた瞬間に口に剣を滑り込ませる。俺にはできない芸当だ。


 ズガッという音が聞こえる。ここからではよく見えないが、刃が消えている。おそらく入ったのだろう。何とも言えない悲鳴が耳に刺さる。次の瞬間タスの剣が俺の視界に入りこむ。剣先には赤色が見える。俺がそれを見た瞬間、剣は下に向かって振られる。


 奴は大きく体を揺らす。何とかかみつこうとするが肝心の口は真っ二つである。タスは横によけると剣を頭に向けて突き刺す。だが一撃ではくたばらない。体を揺らしタスを転倒させようとする。タスは剣を手放し、片手に短剣を持つと、それを頭に深々く差し込む奴はしばらく身を震わせたかと思うとそのまま意気消沈してしまった。


 だが、タスは手を止めなかった。剣を奴の体から抜くと体の胸があるであろう場所にめがけて剣を刺す。こういう時のタスは正直見ていて怖いと思う。

 狩りはタスの登場とともにあっけなく終わった。

 

 

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