治兵衛は実在した人物でもなくモデルとなった人もいないオリジナルキャラクターです。
本作の重茂は高一族の中でもやや微妙な位置づけで、親兄弟相手でもあまり弱い一面を見せるイメージがわかないキャラクター像でした。そんな重茂のパーソナルな面を掘り下げられるような聞き手役が必要だ――そういう考えから生まれたのが治兵衛です。
あくまで聞き手であることが最重要だったので、治兵衛本人には物語上付与した方が良さそうな要素だけを盛り込み、自然とそこにいるような人になるよう心掛けていました。名前が明記されてなかったり台詞が一言もないような話もありましたが、重茂がいるところにはだいたい付き従っているイメージですね。
彼は時に屈折しそうになったり良くない方に向かいそうになったりする重茂の心根を常に支え続けるポジションでした。
そういうキャラクターなだけに、重茂に転機が訪れるタイミングで離別させないといけない。重茂を成長させるには彼から離す必要がある。そういう考えから、退場させることは最初の方で決めていました。
病死ということでも良かったのですが、長期間物語を縁の下で支えてくれたことも考慮し、武士として花を持たせる形で退場させることになりました。徹頭徹尾、重茂のために生き抜いたもう一人の父親というところですね。
武士としての重茂を支えていた治兵衛の喪失は、動かなくなった片腕と併せて重茂の今後を決めていくことになります。
新しい道を選ばざるを得なくなった重茂は今後どうなっていくのか。役割を終えた治兵衛ともども見守っていきたいと思います。