彼らのことは知らなくとも、彼らの苗字を知っている人は多いのではないか――。
後々戦国の世でも活躍する一族の先駆者。それが陸奥将軍府に属して足利と干戈を交えた結城道忠・南部師行・伊達行朝です。
彼らは物語の都合上、個別に深く掘り下げていくことが難しいため、顕家旗下の将として個性が出るよう三者のバランスを取りながらキャラクター像を構築していきました。
結城道忠はベテランとして若い顕家を教え導く参謀兼師匠。
これは道忠が顕家含む他の陸奥将軍府組より年長で「経験豊富な老将」というイメージが早くから固まっていたことによります。
本編開始時点で息子を一人失い、もう一人の息子は故郷に残したまま。そんな境遇にある老いた武人は、胸中に僅かな寂しさを抱えつつも、時に厳しく時に懇切に周囲の若者を支える。それが本作の結城道忠のイメージです。
南部師行は顕家をフォローする形で北畠勢を指揮する実質的な大将。
北畠顕家率いる奥州の軍勢は足利を相手に凄まじい活躍を見せますが、それは顕家個人の才覚だけでなく旗下の武将たちの働きも大きいのではないかと思います。そういう武将たちの存在を集約させたのが、本作の南部師行というキャラクターです。
師行をこの位置に当てはめたのは、顕家に付き従って戦死したという経歴から「顕家の軍事的行動に欠かせない人だったのだろう」という推測によります。
本編執筆後に戎光祥出版社から出た「南北朝武将列伝・南朝編」を見ると行政方面でも活躍した陸奥将軍府の執事的ポジションだったようなので、今後描く機会があればまたちょっと違うキャラクターになるかもしれません。
伊達行朝は北畠勢の軍事行動全般を諜報活動で支える情報将校。
この立ち位置は行朝個人の来歴ではなく、後世伊達氏が諜報・奇襲等で「草」を活用したことから着想を得ています。
彼を出し始めた頃は角川新書の「戦国の忍び」を読んでいたこともあって、その影響が出ている部分もあるかもしれません。
個性が被らないようにしつつ「トップを支える組織の幹部」を構築していくのは面白かったので、この三名を描けたのは良い経験になりました。敵味方問わず、こういうキャラクターはちょっとワクワクするものがありますね。