新田義貞は、結果だけ見ると史実で表舞台に出てきたときの「鎌倉攻め」がピークで、その後は今一つパッとしないような印象を持たれやすいように思います。本作はそんなパッとしない時期からのスタートになるので、彼のことは「英雄豪傑のスゴイ人」ではなく「苦難の中で矜持を抱いて生き抜いた一人の男」として描こうと決めていました。
病を押して赤松と対峙するも結果が出せず、反転してきた足利を前に敗れ、退却したあとの叡山での戦いでは後醍醐に見限られる。
こう書くと散々ですが、彼は腐ることなく足利という強大な相手と戦い続けました。湊川でも相応に奮戦していますし、叡山での戦いも勢いに乗っている足利相手に数ヵ月粘り続けるなど、決して凡将でなく駄目になったわけでもないことが窺えます。
不屈の志を持ったやや不器用な坂東武者。それが本作における新田義貞・新田党の原型です。
決して諦めない部分があったからこそ、足利と一旦和解したかった後醍醐から切り捨てられたとも言えますし、親王を戴いて北陸で第三勢力化した説が出たとも言えます。そのことで「後醍醐の忠臣」としては正成や顕家に水をあけられる形になりましたが、個人的にはそういうところに義貞の不器用で一本気な一面が感じられるような気がしたりします。
重茂や足利一門も当然武士であり、中世武士の価値観に基づいてキャラクターを構築しているのですが、新田党は更に武張ったところを掘り下げて構築していったので、書いているとある種の新鮮さを感じるところもありました。「新星の秋」以降は坂東武者が増えていきますが、新田党はその礎になったとも言えますね。
重茂視点なのでやむをえないところはあるのですが、鎌倉攻めを大きく取り上げなかったことから北条氏との因縁がそこまで出せず、足利との関係性もそこまで掘り下げられなかったのが残念な点ですね。また別の角度から南北朝を描くことがあれば、新田の新しい一面を出せるようチャレンジしていきたいところです。