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花七宝の影法師・登場人物制作秘話其之弐「楠木正成」

楠木正成は南北朝時代の一大スターの一角ですが、イメージの変遷が大きく扱いが難しい人物でもあります。
後醍醐天皇の忠臣。既存の勢力に屈しない悪党。得宗(鎌倉幕府の代表格である北条本家)の被官。描かれ方も作者の個性が強く出る人なのではないかと思います。

本作では出番が限られていることもあり、「湊川の戦いにおける正成」に焦点を当てる形でキャラクターを構築しました。触れなくて良い部分は意図的に入れないようにしています。

本作の正成の特徴は「生きることを諦めない」「高一族との縁」の二点になります。

湊川の戦いは「大軍で攻めて来た足利軍を前に正成は死を覚悟して戦った」という太平記の描写から、どうにも悲劇的な印象があります。しかし死を覚悟して戦場に臨むのは武士としてはさほど特別なことではなく、「湊川の戦いだけを特別悲劇的なものとして捉える必要はないのでは?」と捉え直した結果が本作の正成像になります。
ある意味ドライな捉え方になりますが、人間・正成としてはある程度納得できる形にできたような気がします。

結果的にあそこで戦死する形にはなりましたが、もし生き延びていて義貞たちと一緒に叡山にこもっていたら、籠城戦術を駆使しながら河内辺りを動かして足利軍を散々に悩ませる存在になっていたかもしれません。尊氏たちには気の毒ですが、そういう正成もちょっと見てみたかったですね。

高一族との縁を取り上げたのは、建武の新政において師泰・師直両名と同僚関係にあったという史実がきっかけです。
正成は時代を代表する人物なだけに、同じく時代を代表する足利尊氏との縁を描かれることが多いのですが、立場などはむしろ高一族に近いんですよね。
他ではそこまで取り上げられていないように感じたので、高一族を主役に据えた本作ならではの展開を描きました。
正成を認めているという点では師泰・師直ともに同じですが、戦いの中、それぞれ異なるスタンスで相手に臨む展開は対比の構図として楽しく書かせていただきました。
史実では直接かかわりがなかった重茂とのやり取りも、重茂の個性を出しつつ描けたので個人的には満足しています。

南北朝に関するお話を別途描くことがあれば、また正成に向き合うこともあるかもしれません。
そのときは今回のような臨み方だと通用しないので、また一から彼を捉え直す必要が出てくるかもしれませんね。

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