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花七宝の影法師・登場人物制作秘話其之壱「高師久」

本作の師久は「四兄弟の末っ子」を強く意識したキャラクターとなっています。
若くして亡くなっていることもあって活動期間も短く、彼の人柄を思わせる逸話なども特にないことから、比較的伸びやかに「兄たちの背を見て育った真っすぐな好青年」として自由に描かせてもらいました。

建武の乱という突発的な戦乱の中で頭角を現し、足利家執事である師直の猶子となり、一軍を率いるまでに見出されたその才覚。
重茂にとっては脅威であると同時に誇らしくもあったはずで、この時代の家督継承者でない兄弟同士の感情を想像しながら描かせてもらいました。そういった傍流同士のやり取りは足利尊氏や楠木正成、新田義貞等この時代を代表するスターが主役だと出てこない部分なので、今後も本作の特色の一つにしていければと考えています。

建武の乱がなければ師久もまた日陰者のまま一生を終わらせていたかもしれません。
好青年として描きつつ、そういう傍流ゆえの難しさ・寂しさを常に内包させようということも意識していました。

島津家との交流は諱繋がりということで思いついたネタですが、島津生駒丸も家督継承者の弟という点で共通する部分があり、なかなか良い交流相手になってくれたのではないかと思います。戦乱によって高師久は身を立てつつも世を去りましたが、島津師久はまた違った生涯を歩んでいくことになります。重茂主役の本作でどこまで描けるかは分かりませんが、可能なら再登場させたいですね。

師久の生涯におけるクライマックスの叡山攻防戦。ここは太平記だと割と長く描かれているのですが、史料によって日付がまばらで書いていてかなり苦労したところでもあります。
叡山攻めというと織田信長や細川政元が取り上げられやすいですが、それよりずっと前に攻めかかることになった師久の心境はいかなるものであったか。その点を想像すると胃が痛くなるようであり、よく奮闘したものだと思ってしまいます。

逆に叡山にこもった側から見てもこの戦は面白いですね。湊川以降良いところがなさそうな印象のある新田勢がかなり善戦していたり、興福寺が介入しようとしていた節があったり、北陸方面も含めた広域的な戦略が効いていたり。
ちゃんと調べるまでは湊川以降の消化試合のように捉えていたのですが、こうして師久きっかけで調べてみると重要な戦の一つだったと気づかされました。師久のおかげでこういう発見ができたことには感謝したいですね。

話の都合上、妻の椿と一緒のシーンを描くことはできませんでしたが(なにしろ物語開始から退場までずっと戦場!)、作者が二人の関係性をどう考えていたか、残された者たちの言動や描写から想像していただければと思います。
戦乱があって得た幸福もあったけど、なかったらなかったで得られていたものもあったのではないか――椿を描くときは、そういう心情を込めるようにしています。

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