雨を見ていた。
目の中に入り込む白とも黒ともつかぬ線。それは僕の眼球に垂直に入り接触すると、妙に生温い水分となって眼球の上を滑っていく。僕はまばたきしない。まばたきしない僕の眼球は雨を防ぐ事が出来ない。雨を防ぐ事の出来ない眼球の上を雨が滑る。それは少しだけ不愉快で、そしてどうでもいいものだ。
僕は死んでいる。
僕は死体になっている。
僕は仰向けになっている。
僕は泥の上に仰向けになっている物体である。
泥の上の仰向けの物体に、雨は次から次へと絶え間なく降り注ぐ。雨は物体に振り注ぐ。僕の上に振り注ぐ。まばたきをする事のない眼球の上に降り注ぐ。まばたきをする事のない眼球の上を雨が滑る。それは少しだけ不愉快で、そしてどうでもいいものだ。
僕はいつまでここにいるのだろう。
どうしてここにいるのだろう。
僕はずっとここにいるのだろうか。
僕はどうして死体になってしまったのか。
分からない。
分からないけれど、きっと大した問題じゃない。
だって僕は死体なんだ。
死体になる前の事は全部、もう終わってしまった事、だから。