表面を撫でるとにちゃりという感触がした。
人差し指と中指を当て、少しずつ面積を増やしていく。第一関節、第二関節、すぐに手のひら全体が。僕の皮膚と兄さんの皮膚が隙間なく接着する。
兄さんに触れている。それは、この指から先が溶けるような、本当に幸せな行為だ。
両手で兄さんを包み込む。
兄さんの両目は白濁している。右目は辛うじてまだ眼窩に納まっているが、左目は右目よりも少しだけ盛り上がっている。その稜線はおぞましいようで、同時に愛しいものでもある。見ているだけで甘いような幸福感に満たされる。
開きっぱなしの兄さんの口から、ぽたりと濁った涎が垂れた。
僕は満足している。僕は現状に満足している。僕は現状に満たされている。僕は現状にこの上ない幸福を感じている。
兄さんが僕の傍にいる。それだけで、僕はこれ以上もなく満たされ同時に幸福な思いでいる。
指の間にずくずくと、湿った液体が入り込む。それは兄さんの皮膚から滲み出る体液であると分かっている。僕は兄さんの柔らかな皮膚を存分に味わった後、手を離す。ゆっくりと。惜しんでいる。離れる事を。舐める。手のひらを。少し据えた匂いがし酸っぱくて苦くて少し甘い。
ひとしきり手のひらを舐め回し、今度は首に接着する。兄さんの胸元に鼻を押し付け、思いっきり息を吸い込む。
これが幸福だと思う。