https://kakuyomu.jp/my/works/16817330658385162149/episodes/16817330658385447793/publishedスペイン、バルセロナは3月というのに太陽が燦々と
輝き、市場は喧騒に溢れていた。小皿に盛られた
タパス、鮮やかな色彩の苺や葡萄。その中でも一際
目を引いたのが搾りたてオレンジジュースを飲ませてくれる屋台。
下腹が出た陽気を絵に描いたようなオヤジが一杯どうかね、と知らない言語で誘う。ユーロ札を一枚出すと、オッケー、オッケーと言いながら透明の大きなプラスティック容器に搾り込まれた鮮やかなオレンジジュースが手渡された。
少しの氷が乾いた喉には更に嬉しい。そしてその陽気な
南欧の地方を象徴するかのように柑橘系の芳香と甘酸っぱい美味にアルコールでは実現しない酔いを覚えた。
あれから、日本でも他所でもあんなに美味なオレンジジュースを知らない。それはピカソやダリや、ガウディの溢れる街中だったからこその味だったのだろう。地下鉄の列車の中で陽気に歌うストリートミュージジシャンがいてこその味だったのだろう。
この小説は、再現したくてもう再現できないあの味と香を小説という言語表現で再現しようとする試みである。読者の皆さんに、南欧の青い空と鮮やかに輝くバレンシアオレンジの芳香を伝えたい。
アミーゴ、アディオース。