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平安京でショッピング!―「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕え或ハ近衛大将ノ大詐術」の「二十一」を投稿しました!

平安ファンタジー小説「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕え或ハ近衛大将ノ大詐術」の「二十一 翠令、甘えられる」を投稿しました!

https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393/episodes/16816927860834210024

今回の街歩きでは、翠令が上官の佳卓に背いてでも姫宮を守ろうとしています。
佳卓もまた十歳の姫宮に必要なことを申し上げなければと思いつつ、かといってどう対処していいのか迷うところもあり、母のようにも姉のようにも姫宮を守ってきた翠令の態度を尊重しています。

これから互いに互いの役割を尊重しながら、翠令と佳卓は姫宮のために力を合わせることになります。

今回の近況ノートでのあとがきでは、順番がやや前後しますが、市について分かっていることを書こうと思います。

平安京についての史料で示される通り、平安京には左京と右京にそれぞれ対称を為すように東市と西市が置かれていました。

以下、適宜、風俗博物館が出している「源氏物語と京都 六條院へ出かけよう」から引用しております(162頁~164頁)

”東西の市は半月交代で、月の前半は東市、後半は西市が開かれていたのである。市の内部は細かな区画に分割され、 そこに小さな店舗が軒を接して並んでいた。それぞれの店は販売する商品が決まっていたから、市全体はいわば専門店街のような趣を 持っていた”

しかしながら西の市はさびれてしまったそうです。どうしてわかるのかと言いますと。東の市の井戸の跡から出てくるのは栽培植物や堅果類の植物遺体がほとんどなのに、西の市の井戸からは雑草や、湿地や水田に生える植物が多量に出て来たのだそうで、そこから推定されるのだとか。

こうして東市が栄えて西市が荒れていく中で……

”こうした状況を反映して、東市と西市との間で、扱う商品を奪い合うことなども起こってい った。承和二年(八三五)、西市司は朝廷に願い出て、錦綾、絹、調布、綿、染物、針、櫛、油、 ど き 土器、牛などの十七種の商品をおのずからの専売品とすることに成功した。つまり、これなど はすでに衰退のきざしを見せていた西市へのテ コ入れ策だったということになる。しかし、そ れでは商品を制限された東市はおさまらない。 東市司からの猛烈な反論により、五年後の承和 七年(八四〇)にはこの制度は廃されてしまっ た。しかし、こうなると西市に勝ち目はなく、 顧客を東市に奪われ、店舗には空き屋が目立つ ということになってしまった。承和九年(八四 二)に再び西市司は朝廷に申請を出し、専売制 度を復活したのである。

なお、延喜式には以下のような事実があるそうです。

”平安時代中期の十世紀に完成した『延喜式』 を見ると、東市には五一、西市には三三二の店が 存在したことがわかる。米、塩、針、魚、油、 櫛などはどちらの市でも買うことができたが、 布、麦、木綿、木器、馬、馬具などは東市にし か取り扱っている店がない。逆に、土器、牛、 綿、絹、麻、味噌などは西市の専売品となっている。紆余曲折を経て、両市の間にはこうした棲み分け関係ができていったということになる。”

拙作で、佳卓が錦濤の姫宮と翠令を連れて行ったのは東市を想定しています。ただ、何を扱う店が並んでいるのかは、「米、塩、針、魚、油、 櫛など」と設定しています(上述の、延喜式の中の「どちらの市でも買えるもの」です)。
この品物を列挙する部分はこの本から抜き出して列挙していますが、それはこの本に対する敬意の気持ちからそうしております(いや、ホント、平安時代を舞台にするのに凄く使いでのある本ですので……)。もし何か問題がありましたら別の表現に改めます。

さて。

貨幣経済について。

繫田信一さんの著作(たぶん『庶民たちの平安京』だったかと……)では、平安京では割と貨幣が使われていたようです。

経済的に緊密なつながりがあっただろう錦濤についても、拙作では国際港湾都市として貨幣が使われていたと設定しています。

ただし、錦濤では、積み荷単位での規模の大きい取引は合っても、姫宮や翠令が使うような細々とした日用品を商うしっかりした市は特に存在しません(作中、翠令の台詞に書きました)。
庶民が使うような素朴な道具類は自分達で手作業で自作して済ませ、帝の血を引く姫宮や翠令(大商家の令嬢なんですよ)が用いるほどの高級品はは、京の都で買い整えられているとしています。

この京の都と錦濤の都市としての性格の違いは、今後の展開に関係してきます。

また、佳卓は武官として市街に出ることも多いために貨幣を使い慣れており、姫宮と翠令も商人の家で暮らしているので「そろばん勘定」を横目に眺めながら育ってきています。

一方。貴族の文官の円偉は平安京にいても、自分自身が貨幣を使うことはあまりなく、現在で言うところの「経済」には疎いです(買い物は下男下女がしますから)。

このギャップが後の対立の背景となります。

また、第三部での話になりますが、東国など京の都から離れると貨幣経済はほぼないという設定です。ただの金属片が何かと何かを交換する媒介としては使われません。

今のところ約90話で完結予定なので(完結済みの草稿はあります。ひょっとしたら長すぎる話を2回に分けて話数が変わるかもしれませんが……)、全体の4分の1弱まで来ました。

GW中に投稿を増やしたとしても、今まで通りの水曜、土曜、日曜の週3回ペースで9月くらいまで連載予定です。

どうか今後もご愛読くださいますよう。

今回はこれという写真が思いつかず……。
櫛の話題が出ましたので、風俗博物館の人形展示の中で女君達が互いに髪の手入れをしている場面の写真(2021年夏に撮影)を載せておきます。

手前の後ろ向いた女君二人は、中年になって髪が薄くなった女性に「かもじ」を付けているところだとか。日常のひとコマを展示しているそうですが……。確かにリアルにあったんでしょう、私も身につまされますわあw


風俗博物館 https://www.iz2.or.jp/
「源氏物語と京都 六條院へ出かけよう」 風俗博物館(旧Webサイトに掲載)
https://www.iz2.or.jp/info/hon.html
繫田信一『庶民たちの平安京』角川選書、2008
https://www.kadokawa.co.jp/product/200707000043/

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