たとえ日々が上手く回らずとも、それでも人は働かねばならない。
パッチ達《東北ダンジョンライバーズ》は今日もダンジョンへやって来ていた。
「どーもない、トーホク民のみんな。それじゃ今日も元気に《東北ダンジョンライバーズ》始めまーす!」
:どーもない!
:たまに出る方言聞けて嬉しい。
:今日は(今日も)ユウキちゃんメインかな。
「イエース、今日は私のLv.に合わせてパッチさんが選んでくれたダンジョンを攻略していきます。ガンガン戦ってLv.を上げていきますよー!」
:ふむ? パッチのLv.的にちょい危ない気もするが。
:まあ前に出なければ大丈夫だろ。
:酒カスもいるしな。
「ダンジョン名は《小鬼の巣窟》。Eランク、パーティ攻略推奨レベルは10。全6階層。名前の通りゴブリン系が多いダンジョンです」
基本のゴブリンは言うに及ばず、ゴブリンライダーやゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジといった派生系が多数報告されているダンジョンだ。
:お。ここ知ってる。K市から近いしLv.も手頃だから人型相手の練習でよく行くわ。浅い層の話だが。
:なお攻略は無理な模様。
:ここを攻略できるならボチボチ常人の壁超えてるからね。
「詳しい人が言ってくれた通り努力したり才能のある人が挑む登竜門的なダンジョンですね。今日は私が挑戦します!」
「なお荷物持ちは僕が」
「賑やかしは俺が務めております。ユウキ、後ろから見守ってるからな」
:見守ってる(だけ)なのがな。
:パッチはともかく酒カスがマジカス。
「はいっ、頑張ります師匠!」
:嬉しそうに笑ってまあ。
:忠犬暴走特急ちゃんかわいい。
:ユウキちゃんに免じて許してやるわ。
「それじゃユウキ、突撃しまーす!」
:そんな買い物行ってきまーすなノリで言われても。
:ノリで虐殺されるゴブリンくん可哀想。
:ユウキちゃんLv.12だけど見かけ以上の戦力だからね。
ゴブリンは小難しい策を持たないし、相手にする時も策はいらない。
真正面から切り込み、ハルバードを当たるを幸いに振り回す。ただそれだけで幾体ものゴブリンがず《・》ん《・》ば《・》ら《・》り《・》と輪切りになった。
『アナライズ 完了。データ を 表示します』
【基礎データ】
種族:ゴブリン
位階:5
【スキル】
《小鬼》
《臆病》
《武装:小鬼の盗品》
【耐性】
耐性:無し
弱点:木
と、無機質な機械音声とともに解析データが表示される。配信ドローンとは別のドローンに登録された迷宮攻略支援AI《霞ミル》の声だ。
だがその口調は通常のものとまったく違い、愛嬌や人間らしさが欠片もない機械的なものだった。
:うーん、何時にもましてクールビューティーだなミルちゃん。
:クールビューティーというかメカニカル。
:仕様外の低スペックドローン使った規約違反してるんだから仕方ない。
《東北ダンジョンライバーズ》が契約している迷宮攻略支援AI《霞ミル》はサービス品質が低グレードの廉価モデルだが、さらに《霞ミル》専用ドローンではなく仕様外である他企業の低スペックドローンを無理やり使用している。
僅かでも金銭を節約するための涙ぐましい努力だったがドローンの低スペックがボトルネックとなり、低グレードな霞ミルの性能がさらに低下していた。遊びのない定型口調もその一つだ。
なおトーホク民からはこれはこれでロボ娘っぽくて良いと謎の好評を得ていた。
「次、行きます!」
ゴブリンの集団を散らしたユウキの視線の先には他より頭二つは大きい巨躯の小鬼――ゴブリンチャンピオン。
【基礎データ】
種族:ゴブリンチャンピオン
位階:10
【スキル】
《小鬼英雄》
《勇猛》
《加虐の喜び》
《武装:小鬼の盗品》
【耐性】
耐性:物理
通常種よりも数段タフで好戦的な小鬼英雄はユウキとて油断をすればやられかねない相手だ。
故に一手を講じる。
†《鍛治 (初級)》†《属性権限:金》†《金細工》†《武装:ハルバード》†
さらに力強い一閃を振るうべくその場を動かず力をタメる。込めた気合いに比例するかのようにハルバード先端の斧刃《アックスブレード》が徐々に巨大化していく!
:うおっ、ユウキちゃんの武器がでっかく!?
:知らんのか? ユウキちゃんは火属性と金属性の二属性持ちだぞ。
:金属への干渉や増強は得意分野よ。
「ギ……ギャギャギャッ!」
刃を巨大化するタメを隙と見たゴブリンの一体が粗末な鉄剣を掲げてユウキへ襲いかかった。
「やらせないっての!」
が、ユウキは一人で戦っているのではない。
ゴブリンの顔を正確に狙った投石が横槍を入れる。目の前に飛んできた危険物を無視できるほどゴブリンは豪胆ではない。慌てて避け、体勢が崩れた。
「パッチさん、サポートありがとです!」
:パッチ、ナイスアシスト!
:地味だがやる時はやる男。
:地味だが。
「わざわざ地味って繰り返さなくてもいいだろトーホク民さー!?」
:キレてて草。
:実際地味。なおそんなの関係ねぇディープなファン層抱えてる男。
(これくらいしかできなくても、だからこそこれくらいは……)
この攻略でパッチは荷物運びやアシストに徹していた。
正面切って戦わない補助的な役割ならまだ自分にも務まるはずだ、と思って。チームの解散を考えてはいても、けして解散したい訳ではなかった。
心地いい居場所に居続けたいという、あまりにも当たり前でありふれた未練があった。
:お、ユウキちゃんが勝負かけるぞ!
「これで終わりだああぁぁぁ――ッ!!」
†《斧槍術(初級)》†《大剛刃》†《薙ぎ払い》†
ハルバードを腰だめに構え、一直線に突撃。ゴブリンチャンピオンの間合いに入るや否や巨大化したアックス・ブレードを横薙ぎに振り回す!
「ガアアアァァァッ!」
小さき者に背を向けることをプライドが許さなかった小鬼の英雄も負けじと鉄釘を打った巨大な棍棒で迎え撃った。
派手な血飛沫が舞った。
「ギャ……ギ……ガァァ――」
「勝利!」
正面衝突したゴブリンチャンピオンの棍棒をハルバードが打ち砕き、その勢いのまま持ち主の胴体をも両断したのだ。
敵方の最大戦力を討ち取った。思わずユウキの口から勝利宣言がこぼれる。迅路が眉を顰めた。
「ギギッ!」
勝利の後こそ生まれる隙がある。強敵の命を奪い去った一瞬の油断を狙い撃った者がいる。
†《狙い撃ち》†《腐れ毒》†
ゴブリンアーチャーによる毒纏う一矢が音速でユウキに迫った――だが、足りない。
「痛っ!? まだいたっ!?」
†《魔装:赤口具足》†
赤金色に輝く特別拵えの全身甲冑が小鬼弓手の一矢を弾く。しなやかな足腰が衝撃を吸収し、よろけることもない。
一行の斬り込み隊長を務めるだけあり、ユウキが纏う鎧はLv.以上の高品質品を与えられている。生半可な攻撃では魔装の域に達した《赤口具足》の防御を貫くことはできない。
そのままゴブリンアーチャーへ向けて《炎弾》を三連発。逃げ場を塞ぐよう射線で塞ぎ、こんがりと焼いた。
「む……次!」
目に付いたゴブリンを近い順に薙ぎ払い、切り払っていく。
ゴブリンの一群を相手にした戦いは暫く続いた。
「――ギギ、キキキ」
滴るほどに血腥い殺意を驚くほど巧みに隠した”赤”に観察されながら、続いた。