恋愛には、いくつかの形が存在する。
まあ俺にとって恋愛とは、男女間における愛のやり取りでしかなかった……もちろんそれ以外の形で、所謂同性愛というのがあるのも当然知っている。
しかしながら俺にとっては、そんなものはどうでも良いというか……全然考える必要のない事象だった――だってそうだろ? 身近で見かけるようなことがないので、まるで違う世界のような認識だからだ。
(そう……思ってたんだけどな)
俺は、ベッドの上で寄り添う二人に目を向けた。
「ふわぁ……」
「眠たいの?」
「うん……」
「寝て良いよ? 胸、貸してあげる」
「ありがと」
仲睦まじく寄り添う女子二人――彼女たちは同級生であり、同じ教室で過ごしているクラスメイトだ。
「沙希……好き」
「私もだよ、黒乃」
また始まったよとため息を吐くが……もう見慣れたものだ。
黒髪のウルフカットに、ダウナー系の雰囲気を纏うのが新藤黒乃。
長いふんわりとした金髪に、おっとりとした印象を纏うのが獅子堂沙希。
(相変わらず、ラブラブなことで)
俺の存在なんてないと言わんばかりに、イチャイチャする彼女たちは隠れて付き合っているカップルであり、俺が一生を通して出会うことがないと思っていた百合カップルだったのだ。
俺がそれを知ったのは偶然だったが、そこから二人とそれとなく絡みが増えた。
元々は教室でも特に会話をすることはなかったし、プリントを渡すくらいでしか喋ることがなかった……そうして一切の関わりがないと思っていたのに、今となっては俺の家は彼女たちが隠れて過ごす場所にみたいになっている。
「蓮、まだここに居て大丈夫?」
「え? あぁうん……平気」
蚊帳の外だと思っていただけに、いきなり声をかけられてビックリした。
相変わらずの黒く濁った瞳で見つめてくる黒乃は、抱き着いていた沙希から離れて俺の傍にやってくる。
「分からないところあったら言って。教えてあげる」
「ありがとう」
「うん」
ニコッと微笑んだ黒乃は、そのまま俺の傍に座った。
沙希の元に戻ろうとしない黒乃は、逆になんでそんな顔をするんだと俺を不思議そうに見つめ返す。
そんな黒乃の後ろでは、沙希が俺たちを微笑ましそうに見つめており、彼女もまたベッドから降りて傍にやってきた――沙希は黒乃と一緒に、俺を挟むようにして隣に座った。
「蓮君はそこまで成績が良くないでしょ? 分からないところは私と黒乃に遠慮なく聞いてね」
「いきなり刺してくるんじゃねえよ」
「ふふっ♪」
楽しそうに笑う沙希だが、別に彼女の言葉に不快感はない。
そもそもこんな風に遠慮ない言葉を口にするのも信頼の証らしく、黒乃曰く沙希は自身の家族にさえここまでの笑顔は浮かべないとのこと。
(二人とも……家族が大分厳しいらしいんだよな)
普通とは違う彼女たちの関係は、過去からの傷がそうさせたらしい。
価値観がこれでもかと変わるほどに厳しい家庭環境ではなかったし、そもそも俺にとって家族は大切だと思えるものなので、本当に彼女たちの両親がどんな風なのか全く想像出来ない。
「明日は休みだし……今日は泊りたい」
「良いね。私も同じこと考えてたんだけど……蓮はどう?」
「あ~……」
しばらく考えた後、俺は良いよと頷く。
二人とも嬉しそうに微笑み、やったとハイタッチをしたかと思えば両方からギュッと抱き着いてきた。
「ええい! 勉強の邪魔だ!」
「嬉しいくせに」
「嫌じゃないくせに」
両耳の近くで囁かれ、背中がゾクゾクした。
(クソッ……こんなの集中出来るかよ!)
耳元で囁かれるのはまだ良い……でもそれ以上に集中力を削いでくるのは、94と96という数字を刻んだ彼女たちの特大バストのせいだ。
(ほんと……なんでこうなっちまったんだか)
そう考えるのも何度目だろうか。
こんな風にやり取りをする仲でもなく、ましてや二人は女同士で付き合う百合カップルなのに……俺が何故こんな立場なのか、そして何より俺に対して二人が熱っぽい視線を向けるのか。
「今日のノルマはいけそうなの?」
「えっと……もうすぐかな」
「じゃあ、ご褒美に何かしてあげようかな」
「あ、ズルい! 私も蓮にしてあげたい!」
「……………」
黒乃と沙希は間違いなく付き合っている……だが、とあることがあった影響で二人が俺を見る目が変わった……そして俺もまた、そんな二人の雰囲気に流されている。
『男の子とはどんな風にエッチなことするのかな』
『気になるねぇ……ねえ蓮君、良かったらどう?』
『……え?』
冗談だと、俺は思ったんだ。
でもそうじゃなかった……俺は、
『……良いのか?』
一度抱いた興味を捨てることは出来ず、俺は二人と体の関係を持った。
そこから俺たちは、不思議でありながら特別な関係へとなってしまったのだ。
※作業が落ち着いたらね!