2022年12月31日の夜
恒例のように、自分は八卦を使い……
来年の自分の運勢、及び人生の大まかな流れを天に問いただした。
床に落ちた葉っぱは一つの卦象を示した。
「艮」
山二つ、わかりやすいなあ。
来年は前途多難、困難と試練が待ち構えている。
山の如き不動な心を貫く必要があり。
しかも、六つの爻のうち、四つの変数が存在する。
つまり多事多難の秋、でも同時に転機も含まれている。
これは……はっきり言って、吉卦とは言えない。
用心するしかないなあ……
数ヶ月後の春、元カノと破局した。
「あなた……本当に私のこと好きなの?」
!!!……ははは……返す言葉もないなあ……
なるほど、高校時代の元カノもこの疑問を抱い……
自分に別れを告げたのか……
つまりこれは二度目だ、三度目になってたまるか!?
もう恋はしない。と言うより、出来ない。
あの人以外の女の子と付き合うなんて、上手くいくはずがない。
そんな簡単なことも分からないとは……我ながらアホだな。
講義、バイトと読書で夏の日々を消費した。
そして、秋になった……
まさか、とあるきっかけで、あの人と再会した!
信じられん!嬉しい!
もしかして自分、一生分の運を使い果たした?
それでも構わない!
でも……なるほど、試練とはそういうことか……
なら、自分のやるべきことは一つしかない。
まさかあの人とこういう関係になったとは……
でも、素直に喜べない自分がいる。
あの人が自分に求めてくれるのは嬉しいが……
でもあの人にとって、自分はどういう存在なんだろう?
「ごめんね……ごめん…ね……」
「大丈夫。大丈夫だから、俺はずっとここにいるから。」
自分の背中に雫が落ちた……痛い。
っく!まただ、そんな言葉聞きたくない!
やっぱり、自分じゃだめかな?
自分じゃどうすることも出来ないのかな?
あの人からあれだけの恩を受けたのに……
このぐらいのことも出来ないとは……
この役立たずが……死ねよ……
「ねぇ、今日も一緒に映画観る?」
「っ……ああ、いいよ。」
もう無理!誰でもいいから、教えてくれ!
あの人を救うには自分はどうすればいい?
どうすれば……
はあ……今夜も眠れそうにないな……
適当になんか読むか……
うわ、なにこれ?主人公どんだけドMかよ!?
いわゆる究極の愛ってやつ?
自分は同じことができるかな?
どれどれ………
…………これは。
「54歳乙女のママンがバィンと相談に乗るわよっ!」
「だって楽を覚えちゃったもんね。身体も心も。
……そして自分は『まだ誰のものでもない』」
「イコさんは人生をやり直したとしても守岡と出会いたいか……
きっと彼女は『はい』と答えると思います」
なあ……彼女と再会したことを後悔してる?
いいえ!していない!それだけは断言できる!
なら、なぜそんなに辛いんだ?彼女を救えないから?
そうだ、今のこの関係ではあの人を救えない。自分も報われない。
じゃあ、彼女とどういう関係になりたい?
……決まってるだろ!
なら、迷うことがないだろう?
それは!そうかもしれない、でも……
なに弱気になってんだ。このチャンスを逃したら……
今度こそ完全に彼女とすれ違いことになる!
また彼女が知らない男に連れ去られる光景が見たいのか?お前は!?
……それだけは絶対に……!!!
ふう……公開した。
これで後には戻れん。
色々準備も済ませた。心構えもよし!
後は……前に進むしかない。
ん?……雪が降ってたんだ……
「もう……仕方ないなあ……いつの間にこんなわがままな子になったの?」
「ああ、そうだ。俺はわがままで仕方のないやつだ。だから……」
だから……あなたがいないと……ダメなんだよ。
「じゃあ……その代わりに、私も少しわがまま言っていい?」
「あ!ああ、何なりと!」
彼女の要望は四つ。
一つ目、一緒に住むこと。
二つ目、自分はバイトを辞めること。
三つ目、これから家事は全て彼女がやること。
四つ目………
交渉の結果は自分が掛け持ちした三つのバイトを一つになった。
それ以外は全て飲む形になった。
確かに家賃などの出費はなくなったが……
せめて光熱費を出すという提案も却下された。
ならばせめて食費を、という提案も同じく。
最後の足掻きは料理。週に三日、自分が料理を担当する。
そして彼女の当番の時、自分はサポートする。
彼女は亡くなったご両親が残した遺産と生命保険金があるので……
たとえ一生働かなくでも、特に問題ない。
贅沢こそは出来ないが、普通に生きるなら十分な額があるそうだ。
しかもこの二年間、彼女は暇つぶしにその金を種金として株を買い……
元手は減るどころか、少し増えてる。
まったく、昔から彼女は色々要領がいいと言うか、完璧と言うか。
でも、だからって彼女に甘える訳にはいかない。
男の沽券だけではない!
ただでさえ、彼女とは釣り合いが取れていないのに。
彼女のとなりに立つ資格を得るには……
まず彼女にぶら下がるヒモになるのは絶対に避けないと。
こうして、穏やかな日々が流れ、クリスマスが来た。
彼女との初めてのクリスマスだ!気合いを入れないと!
自分は色々を用意した、勿論真っ赤のバラも。
彼女に忘れない聖夜を……よし!やるぞ!
でも、高校制服を着た彼女を目にした瞬間……
一気にやる気は失せた。そして、泣いた。
高校時代の彼女は自分の知らない彼女。
もしあの時、彼女とすれ違わなかったら……
イブの夜、眠くなるまで、自分も彼女も昔話をし続けた。
そして自分は彼女とすれ違った理由を知らされた……
悔しくて、悲しくて。
やっぱり自分は天下一の大バカ者であることを改めて分かった。
もうあの頃に戻れない、でもこれからがある。
彼女との新しい関係、初めての年越し。
新しい日の出、新しいスタート!
そう!これからなんだよ!
でも次の日、彼女は熱を出し、倒れた。
彼女を病院に連れ、精密検査を受けた。ついでに自分も。
結果、自分の健康は良好。虫歯は一つだけ、それ以外の問題はない。
でも、彼女の問題は……
新型コロナ初期感染者の彼女は免疫力が低下。肺と胃が弱い。
そして……後遺症で嗅覚を失った。
更に、カウンセリングを受けた結果は……鬱病。
軽症とは言え、五段階のうちの第二段階。
ゾッとした。今の彼女は第二段階なら、再会の時の彼女は……
自分は残りの一つのバイトも辞めた。
そして、家事を全て引き受けた。問答無用!
料理が得意で薬膳の知識が持つ自分が今後の彼女の栄養管理士になる。
病院から戻った彼女は渋々頷いた。
本当はすぐ漢方薬を使いたいが、胃の弱い彼女は受付が良くない。
なら、当面の課題は風邪の注意と胃の回復。
そして、彼女の体重を55kgまで上がること。
勿論、一緒に映画も暫く休止。十分な睡眠時間を確保。
その後は鍛錬。最初は家で軽い運動、そして徐々に外に出て、ジムに。
そうすれば、徐々に体質を改善し、免疫力も上がるだろう。
出来れば来年の夏の頃、一気に漢方薬と針灸を使い、嗅覚を取り戻す。
そして彼女の体調次第、彼女を連れて旅行に行く。
幸い、高校時代からバイトを続けた自分はある程度の貯金がある。
そして、ソシャゲに興味のない自分は課金とは無縁。
「タバコは不良の始まりだよ!」
「博打の十中八九は騙しだよ!」
……のおかげで、そういう類いの出費も無縁である。
よく思えば、自分はバイト、読書、料理、鍛錬以外の趣味がない
まったく、彼女の教育で、我ながら本当につまらん人間になった。
でも、今はむしろ都合がいい。
来年、丸々一年の時間を、全て彼女のために使う。
そして自分はこの計画を彼女に打ち明けた。
彼女は泣きながら、それを受け入てくれた。
そして今度は「ごめんね……」ではなく。
「うん、ありがとう。私、頑張るね!」…だそうだ。
うん!これでいい。彼女は自分が守る!
2023年12月31日の夜
恒例のように、自分は八卦を使い……
来年の自分と彼女の運勢、及び人生の大まかな流れを天に問いただす。
「あら!八卦占い、懐かしい~もしかして毎年やってたの?」
「ああ、誰かさんに教えられた以来、毎年。」
「感心、感心!葉っぱはもう用意した?私が投げようか?」
「そうだな、いいよ!」
彼女の両手からこぼれ落ちた18枚の葉っぱは一つの卦象になった。
「……需、だね。」
「……需、だな。」
水が天に上り、やがて雨と化し、降り注ぐ、地上の万物に潤いを与える。
上吉の卦だ!そして、変数が一つ、なるほど……
去年は「艮」で、今年は「需」か……まったく、これだから八卦は!
「ふふ~面白い卦象だね。ちなみに去年は?」
「艮だ、すごいだろう?」
「本当に!?変数は?」
「四つ。」
「……よく頑張ったね。だから今年は需なのね。」
「ああ!山を越え、道が現れ、機も熟し、新たなる需要に手を伸ばす、届く。」
「そう!同時に謙虚と慎みを忘れず!欲張りはだめだよ!」
「ああ、望む物に手が届いたとは言え、必要な分だけを取る。だろう?」
「うん、うん~変数が一つ、最後まで油断せず、勝って兜の緒を締める、だよ!」
「はい、はい。分かってますよ。先生。」
四つ目……約束して、もう私を一人にしないで……
同じ過ちを繰り返さない 、繰り返すものか!
自分はもう望む物に手が届いた。もう何も要らない。
でも、まだまだ!
これからは一番近い場所で彼女と一緒に……春夏秋冬、温涼寒暑を過ごす。
このままずっと、この先も、この先もずっと……