猫缶を食べるほどお金が無かった大学生時代。サークルの友人達と人里を離れすぎて、もはや誰も居ないキャンプ場に遊びに来た時のことです。
火おこしに4時間かかり夕食はステーキ用の肉が高くて買えずしゃぶしゃぶ用の肉を焼いていたら網目から8割落ちてしまったので焼肉のタレをご飯にかけて夕食とし、燻製オタクの友人が持参した簡易燻製キットで朝ごはん用の燻製を作り、ネットをかけて木に吊るした。
布団はレンタル料金が800円もしたので全員蹴れば倒れそうなコテージの床に各々身体が痛くならない工夫をして直接寝ていると深夜外から聞こえる謎の音で目を覚ました。
ちょうど隣で寝ていた友人がトイレに行きたいから付いてきてくれと言うので、なんとなく僕もお腹の調子が悪かったこともあり懐中電灯を持ち用を足しに少し離れた場所にあるトイレへ向かう。
僕が個室で用を足していると友人の悲鳴がきこえた。
「うわぁぁぁぁぁぁー!!!!」
「どうした友人!!?友人っ!!!俺を置いていくな!!!」
直ぐにでも飛び出したかったが生憎のタイミングで便座を動くことが出来ない。ドアを開けて何度も友人の名を叫ぶも応答がない・・。
なにこれ!?バイオハザード!?
仕方なくポケットから携帯電話を出そうとした時だった・・・
「はやく逃げろ!!」と言う男性の声がはっきりと聞こえた。
次の瞬間、僕は背中にとんでもない衝撃を受けて便器の蓋ごと個室の外へ放り出され、小便器に顔を強打した。
「・・・・・・」
人間パニックになると何も言葉が出て来ないものだ。
僕はパンツを下ろした情けない姿で先ほどまで自分が座っていた便座に目を向ける。
暗闇に光る鋭利な牙を持った大きな猪と目が合う。牙は壁と便器を貫通し猪はその間に挟まり身動きが取れないようだ。
・・・逃げないと!!!
僕は本能的に立ち上がり、お尻を拭くことも吹き飛ばされた時に脱げたズボンを回収することも忘れ全速力でコテージへと走る。
友人が窓から何か叫んでいる。どうやら皆、起きているようだ。
「こっち!!手貸すから窓から入って来い!!!ってか何持ってるの!!?便座カバー??捨ててこいよそんなもん!!!」
僕は友人達の手を借り窓から部屋に入る。もちろん便座カバーも一緒だ。扉の前には他の友人が皆の荷物でバリケードを作り、飯盒を拳に付けて構えているバカもいた。
「良かった無事で・・。警察と消防に電話するところだったよ!!」
「大変なんっすよ先輩っ!!猪と野犬が燻製食いに来たみたいでコテージの周りカオスっすw」
「お前が急に居なくなるから俺は便所の個室でひとりで泣きそうだったんだからな!!!後ろから猪突っ込んで来るし!!!トイレ大破したぞ」
「え!?どういうこと!?」
「お前どうしたその格好?なんでパンツ1枚で便座カバーもってるの?頭いかれた?」
「汚っ!!お前よく見たら泥だらけじゃん」
バリケードを作っていた友人達が僕の姿を見て驚く。
・・・赫々云々
「それマジ!!お前ほんと面白いなw」
「芸人になれば??」
「笑い事じゃねーよ!!!見ろこの便座カバーの凹み!!これが無かったら今頃猪の牙で処女喪失してるところだったよ!!!」
「目覚めちゃうかもなww」
「先輩それ笑い事じゃないですってww」
「お前も笑ってんじゃねーか!!」
僕等は日が出るまでなるべく大きな音を出して過ごした。
飯盒は何度も叩かれてベコベコだ。
お尻を拭いていないことは当然皆には秘密にしてある。
それにしても個室で僕に「逃げろ!!」と言った声の主は誰だったのか。
一緒にトイレに行った友人に聞いてみたが自分が逃げることに精一杯でそんなことは言っていないらしい。
長い夜が明け、僕等は外に出て辺りを見渡すと小屋の周りは獣の足跡と食い荒らされた朝食の燻製が散乱していた。
猪が居ないのを確認し惨劇の起きたトイレへ行き僕はズボンを回収した。
便器は見事に大破し大きな水溜りができていた。
その凄惨な現場をみて友人達は「・・・お前よく生きてるな」と口にした。
これからの季節キャンプには気を付けましょう。
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