胸を張って言う事ではないが僕はペーパードライバーだ。
初めて乗る人は絶対酔うし、後方確認と左右の巻き込みの確認は助手席の仕事、一度走った首都高の合流では友人に後部座席から身を乗り出させて後続車を止めてもらわないとならない介護度と言えば伝わっただろうか?
今日は友人に誘われ人生初サーキットに来ている。
ゴーカートに毛が生えた程度の物だがヘルメットも被るし一応普通自動車の免許証も提示を求められたのでそこそこスピードは出る。
受付の女性から簡単な説明と手解きを受け、いざコースへ。
先陣を切るのは友人。その半周後に僕がスタートする。
コーナリングではハンドルに直に負荷がかかり油断すると簡単にスピンしてしまう。
2周目のコーナー手前でスピードを緩めようとブレーキを踏んだ時だった。
ガンッ!!!ブスンッ!!!ガガガガガガガガガ!!!!!
明らかに後方から異音が聞こえた。そして後方に何か鉄の塊が飛んでいくのがバックミラーで目視できた。
本能的に危険を察知しブレーキを踏む。
ブレーキを踏む。
・・・・・・ブレーキの消失。
先ほど後方に飛んで行ったのはどうやらブレーキだったようだ。
なんだブレーキか。ついでにアクセルがベタ踏みのまま戻らない。
・・・・・・助けてっ!!!!
僕は必死で叫んだ。しかし僕の叫びなどエンジン音で聞こえるはずもない。
前を走る友人との間隔もほぼ無い。
「どけっ!!!!!!」
気付けば前を行く友人のカートをインから差し、ついでにぶつけてコース外へ吹き飛ばした。
異変に気付いたスタッフ慌てて緊急放送をかける。
『非常停止ボタンを押して下さい』
どこにあるのそれ!?僕はそんな説明など聞いていないし探す余裕もない。
火災報知器のようなサイレンが響き渡る。
まさかとは思ったが後方を確認すると煙が出ている。
血の気が引いて行くのがわかった。
その時だった!
『非常停止ボタン』
見つけた!!!これだ!!!
「いやー・・・申し訳ありませんでした。わたし非常停止ボタンの説明するの忘れてました」
「忘れてましたじゃねーんだよボケ!!!」
「ですが初心者では歴代9位の記録ですよ!?」
「当たり前だよアホ!!!ブレーキ踏んでねーんだからそれくらい出るだろバカ!!!お前サイコパスか!!?」
事故のお詫びにと無料チケット10回分を貰ったが僕がカートに乗ることはもう死ぬまで無いだろう。
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読んでいただきありがとうございます。
『わたしの貞操観念を地雷原から見つけてきなさい』は8話までの分で一章が完結です。続きも書いて行きますので面白ければ☆・♡などで応援よろしくおねがいいたします。
気温も上がりマスクをするには苦しい時期となってまいりましたが皆さまが日々を健やかに過ごせますように。
ともり