今はガガガ文庫ライトノベル大賞に送る為に下書きにしてある「砂紡ぎの商人」という作品が有ります。
これを書いている時、不思議な夢を見ました。
やけに明るい空間。ただ目の前には真っ白が広がっていました。
白いな。そう思っていると、視界右上の方から黒い文字がカタカタカタと言う音と共に詰まって来ました。
白が徐々に黒に書き潰されていく。上から下に。右から左に。
そこは今まさに自分が書いている所でした。
主人公の過去に遡って、どういう境遇でこの男はこんな考え方を持ち、生きて来たのかを書いているところでした。
自分の場合、予測が甘いと言うか、多分こういう人物だろうと思っていたら、実は違ったと言うのはざらで、人物を掘り下げる時はいつも発見があります。
此度の主人公は自分の想像の外の人間でしたので、掘り下げた時に初めて彼の潔癖な純粋さを知ったわけですが、夢の中でもその部分を書いているわけです。
そして真っ白が真っ黒に書き換わった瞬間。
全身に文字が侵入してくる感覚。
ぞぞぞぞぞ。
爪先から皮膚の下を通って首下へ。
自分は飛び起きました。
全身が痒くて堪らなくなり発狂したかのように掻き毟りました。
暫くして、落ち着いた時、自分は遂におかしくなったのかと思いました。
このままでは小説に殺されるのでは。
そう思うと今度は逆に胸には溢れんばかりの歓喜が湧きました。
なんと幸せな事だろう!
小説家として、これほど幸福な死に方が他に在ろうか!
歓喜と狂乱、幸福と絶望が共存する不可思議な心理現象が、とても愛おしく感じました。
生まれて初めて、小説を書いている夢を見たと言う、喜びもあったので、次第にそれはマイナスよりプラスのイメージを持つようになりました。
今、あの時の事を思い返すと、なんだか主人公にガチギレされただけなのかもなあと思わなくもありません。
「貴様はどういう領分で俺の心を覗き見るのだ。俺の事など完全に理解できない癖に知ろうとしているのはなぜだ。貴様如きが俺を語るのなら、それ以上に貴様がまず応分の苦しみを味わえ。そしてもし苦しみを耐えてなお俺の事を語ると言うなら、適当な濁した言い方などするな。真実を語れ。約束を違えれば、斬る」
とか、多分そんな感じの事を言うだろうなあ。
まあどっちであれ、自分は幸せだと思います。