ゲームでは『閉じた筐の風景』を読み終えると、この『そばえ』と『はねずいろ』が同時に開放されて読めるようになります。
これはプレイヤーがある程度自由に物語を読めるようにするという「プロムナードノベルシステム」の仕様も関係しています。
今回は小説形式なので時間軸に従って『そばえ』から読めるようにしました。
『そばえ』では宗哉のかつての恋人、朝比奈水緒が登場します。
(制作していた頃は中学生で彼氏彼女かよと思いましたが、今では小学生で彼氏彼女だったりするんですよね……時代だなあ)
過去と現在を交互に進めていく構成で、宗哉の過去やカノジョ観が垣間見えるお話です。
また、美空、美星、綾乃先生たちの水着姿も見られるサービス回でもあります。
文章では宗哉が水緒を手にかけた描写はありません。
ゲームでは絵と音が使えるので、「第11話 別れ」の最後で倒れている水緒の絵を表示して水緒が死んだことを示しています。
(ルート分岐によって宗哉が死ぬこともあります)
ルート分岐は小説でもできなくはありませんが、ゲームならではの表現だと思います。
今回はすべてのルートの公開をしませんが、個人的にもう一つのルートである「雨の降る駅2」の描写が好きなので、ここに残しておきます。
タイトル下の画像は左から順に、
綾乃先生、美空、美星の水着姿
水緒
倒れている水緒
になります。
「雨だね」
「はい」
僕に振られたとおぼしき水緒の呟きに返事をしたのは、意外にも美星ちゃんだった。
美星ちゃんは物静かな印象が強くて、こんなふうに積極的に会話に割り込んでくるようなことは珍しいように思う。大胆な服装といい、今日はなんだか妙にアクティブだ。
美星ちゃんの着ている洋服のカットから、透き通るような素肌が露わになっている。どきどきするくらい、かなりきわどいラインだ。
どうやら美星ちゃんは、行きは服の下に水着を着ていたらしい。帰りは水着が濡れているから裸なんだろうか。
「……雨だね」
美星ちゃんとしばらく見つめ合ってから、もう一度水緒がそう呟く。
雨には思い出がある。
けれど、今、水緒がそのことを考えているのかどうかはやっぱりわからなかった。
三年前。
結局、僕には彼女のことがよくわからずに、そのせいなのか、そのせいでないのかもわからないまま僕たちの距離は離れてしまった。
三年という年月が長いのか短いのかよくわからないけれど、僕らの年齢にとっては、きっと一生というのとそれほど変わらないくらい長い気がする。
それでも、三年後に逢った彼女は、相変わらずあまりにも彼女過ぎて、僕にはどう接すればいいのか見当もつかないでいた。
「宗ちゃん、元気にしてた?」
「はい、お兄ちゃんはお元気です」
「…………」
「…………」
空を覆う雨雲より重い沈黙が、ホームに落ちる。
今度は水緒も美星ちゃんもお互いを見ようとはせず、僕を間に挟んで黙って電車を待っている。
「まだピーマンは嫌い?」
「はい」
「今も部活とかやってないの?」
「お兄ちゃんは部活動に参加されていません」
「…………」
「…………」
雨がさらさらと勢いを弱めたのに、気分はますます沈んでいくような気がする。
「――あれ、人魚姫だね」
駅の壁にかかっているのは、ミュージカル公演の看板らしい。ニュースやネットで評判にもなっている劇団の、期待の新作だ。
以前、黛に連れられていったミュージカル「ドッグ」はそれなりに面白かった。
ハードボイルドタッチの新感覚ミュージカルで、ラスト付近、仲間を殺された軍人上がりのドーベルマンが逆襲に転じるくだりは思わず熱くなってしまう。
ふふ、と水緒が笑う。
「人魚姫、やったよね」
「――――――っ?!」
うん、鋭い攻撃だ。
当然、美星ちゃんが知っていることではないから言葉に詰まった。
仕方なく、僕が言葉を引き継ぐ。
「……憶えてる」