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【年末のご挨拶】+箱スノの大掃除SS公開!


お世話になっています、おもちです。

2023年もあと数時間で終わりですね。
大晦日の夜ということで、皆さんはテレビの特番でも見てらっしゃるのでしょうか。
お蕎麦の用意もしなきゃですね!

さて、箱スノが連載開始したのが7月なので、ちょうど半年がたちました。
読んでくださるみなさまに、ご挨拶をさせていただきたく、こうして近況ノートを書いています。

本年は初めてネットに自分の作品を載せた年ということで、いろいろ印象深いことが多くありました。
感想を頂けて嬉しくてリアルで舞い上がったり、章を書き切った瞬間の達成感だったり。
そんなこんなの執筆の楽しさも、読者様がいてこそなので、心からの感謝を申し上げます。
ありがとうございます!

そんな感謝の気持ちを込めてと言ってはなんですが、箱スノのちょっとしたSSを書いてみました。
1月に連載再開予定なのですが、それまでのつなぎとして楽しんでいただけると嬉しいです。
本編はもう少しお待ちくださいね!! 一応毎日数千文字は書いてるという言い訳はさせてください……

では良いお年をお過ごしください☺︎

                *

【碧とくるみの年末大掃除】※時系列は第1章終盤

「ところで、碧くんは大掃除のスケジュール決めているの?」

 それは十二月中旬を過ぎた頃。

 契約に則っていつも通りくるみがキッチンで晩ごはんの用意をしていたので、今夜彼女に見せる映画のDVDを選ぶ手を止めて首を傾げると、出汁の湯気に乗って続きの言葉が届いた。

「年末の大掃除。クリスマス・イブに飛行機に乗るんでしょう? なら今から始めないと、全部は終わらないんじゃないかしら」

「おーそーじ? 知らない言葉ですね。日本語はおくが深い」

「片言なの気のせい?」

「気のせい」

 面倒なことに及び腰な碧に呆れたため息を吐いてから、くるみはわざわざ小学一年生向けの説明を展開してくれる。

「知らないなら教えてあげる。大掃除というのは年末に一年の汚れをすっきり……」

「冗談だから。さすがに帰国子女でも、それくらいは知ってます」

「む……」

 ちょっとした嘘をすぐ真に受けるくるみが、キッチンカウンターの向こうからほんのりとした呆れの睥睨を飛ばしてくる。

「とにかく、郷に入れば郷に従えって言うでしょ? 日頃からある程度綺麗にしているとはいえ、新しい年を気分よく迎えるには大切なことなのよ」

「うっ」

 そのことわざには弱い。碧とて、いや碧だからこそ……十年も外国にいて現地の文化を重んじることの大切さはよく存じ上げてるつもりだ。


「……じゃあ明日やります」

「そ、分かった。じゃあ十時にここに集合でいい?」

「え?」

 くるみはこちらは見ずに、みそ汁を椀によそっている。

「私が一方的に言うだけ言ってほったらかしにするはずないでしょう。ちゃんとお手伝いはする……ていうか私が采配を振るわよ。それに碧くんだけにやらせたら、混ぜるな危険を説明書き読まずに使って、週明けのニュースの見出しになりそうだし」

「え……けど、くるみさんを労働力にするのは気が引けるというか……」

「それは気にしないでいい。私、こういうの得意なの」

 何故か瞳をきらきらしながら、やる気に溢れたようにキッチンの布巾を掲げてみせる。

 どうやら世話好きな家事手伝い妖精さんは、お掃除まで大好きらしい。

                *

「……さて。まずははたきで埃を落とすところから始めましょうか」

 翌朝、くるみはやってきた。

 トレーナーにジーンズというラフな格好で、上には料理の時とはまた違うエプロンを身につけている。そんな家庭っぽさ溢れる服装でもいつもの美貌に曇りはないのがすごい。

「僕はどうすればいい?」

「お掃除自体は私が言いだしたのだし、気分が乗らなければ碧くんはソファで休んでいてもいいけど」

「それ肩身狭過ぎだしそんな薄情なことしませんって。僕もちゃんと働きます」
 自分の家なのに、友人の女の子に仕事を全部押しつけるなんてありえないだろう。

「じゃあ自分のお部屋のお掃除をおねがいできる? 私はリビングをするから」

「あいあいさー」

「早く終わったらごほうびに、お昼にはあなたのすきなのを何でもつくってあげるわね」

「ほんと!? じゃあ僕オムライスがいい」

「ふふ、はあい」

「すげえやる気出てきた。二時間で全部終わらせましょう」

 とたんに漲りだした碧にくるみは可笑しそうにくすりと笑った。

「食いしん坊さん。さ、じゃあ早速始めましょっか。腕が鳴るわね」

 くるみのやる気は碧以上のようだ。どこかわくわくしたような様相で部屋の埃が溜まっているところをチェックし、袖を捲って白く細い腕をあらわにする。

 この人、もしかして自分が掃除したいだけなんじゃ? と思ったがひとまず口には出さず、自分の部屋に向かった。



「どう? そっちのほうは順調?」

 一時間ほど黙々と手を動かしたところで、くるみがひょこっと顔を出しにきた。

 クローゼットの横には段ボールが二つ。要らないものを分別できたので、成果は上々だろう。後は要ると判断したものを詰めた方の箱を戻すだけだ。

「いらない洋服と本の選別を先にしてた」

「そう、ちゃんと頑張ってたんだ。偉いえらい」

「すぐ子供扱いする」

 この家は、碧がドイツに行ってからしばらくの間、知り合いに貸していた。その人が二年ほど前に退去したので、父が碧に日本の高校に進学するように取り計らい、今に至る。

 ドイツに持っていけなかった、碧の子供の頃の数少ない思い出の品はクローゼットにずっと置かせてもらっていたので、懐かしいものが沢山出てきて手が止まりそうなのを堪えるのに難儀した。

「そっちはどうですか?」

「換気扇とエアコンの上の埃は落とせて、掃除機もかけ終えたから、後は床拭きというところかしら。カーテンも外して、今洗濯機を回してる」

「うわさすが」

「お掃除は好きだから」

 料理ができるのは毎日身に染みて分かっていたが、掃除まで出来るなんて驚きだ。家政婦がいるのに掃除が好きなのは不思議だけど、とにかく彼女は将来一人暮らししても碧とは違って立派に生きていけるのだろう。

「僕は誘惑に負けないようにするのがせいいっぱいでした」
 まだ埃落としも掃除機も出来ていない。わざとらしく肩を竦め、捨てる予定の段ボールの中を指差す。

「漫画……?」

「昔のだけどね」

 普段読まないものだからか、くるみは興味を示した。

 掃除中だからあまり寄り道をしてはいけないと分かりつつ、好奇心は抑えられないのだろう。こちらを見てくるので頷くと、ぱっと表情が明るくなった。おずおずと手を伸ばし、ぱらぱらとページを捲って首をこてんと倒す。

「これ、どうやって読むの?」

「右から左下に向かって読む。……本当に読んだことないんだ」

「こういうの、家で禁止されてたから」

 そういうところはやはり世間知らずのお嬢様といったところだろう。娯楽のはずの漫画なのに、真剣に読み込んでいく姿は大真面目そのものなのが妙に可愛らしい。

「……何でこの人は語尾が『だってばよ』なの?」

「そういうものだと受け止めてください」

「この人、じゃんけんしたと思ったら急に相手殴ってる」

「何しても許される世界なんですよ」

「……このトナカイのキャラ可愛い」

「そいつたまに人間っぽくなるよ」

 くるみは未知の世界に首ったけだ。

 そう、動くなら今のうちだろう。

 要る方に分別した段ボールの中身にはあまり見られたくないものがあるので、早々に封をしてクローゼットに戻そうと立ち上がったところで、

「わ、アルバム?」

 見つかってしまった。

「えーと……これは見ても面白くナイデスヨ」

「片言なの気のせい?」

「気のせい」

 覚えのある会話を交わし、くるみがじーっとこちらを見詰めてくる。

 透き通った薄茶色の眼差しが、アルバムを見たいと物語っている気がする。

 そういう目で見られるのに碧はめっぽう弱かった。ええいままよと観念して一冊の分厚いアルバムを差し出す。くるみがどこかそわそわとページを一枚捲り……その手が止まる。

「これが……碧くん?」

 くるみの声は実に意外っぽい。

 そう。見られたくなかったのは、昔の自分がよく女の子に間違われていたからだ。

「それが僕」

 自棄になって、なるようになれと返事をすると、くるみがくすりと笑った。

「碧くん、今とあんまり……ううん、何でもない」

「なんか不穏なこと言いかけてなかった?」

「ううん。何でもないの。ただ、わりと格好いいなって……思っただけ」

 どきっとしたのは、その言い方だと今も格好いいと思われているのか、と思ってしまったからだ。

 自分が凛々しくも精悍でもない自覚はある。くるみが自分をそんな風に思うはずもないので、思い上がりは首を振って追い払った。

「けど、幼稚園までのしかない?」

「ドイツで撮ったやつは全部ベルリンの家にあるからね」

「じゃあ今度見せて」

「……見ても別に面白いもんじゃないと思うけど」

「でも見たい。別に……駄目ならいいけど」

 それはベルリンまで連れて行ってという意味なのか、そこまで深くは考えていないのか。

 ——まあ探っても仕方ないか。

「いいよ。その代わりくるみさんのも見せてよ」

「いいけど……入学式とかピアノの発表会とかばかりで、こういう日常のひとこまみたいなのは少ないわよ」

「それでも。僕は見せたんだから見る権利あるでしょ」

「じゃあ、そのうち覚えてたらね」

 首を竦め、碧はくるみの隣でページを見下ろし、ゆっくり捲っていく。
 

 ——もちろん掃除が終わることはなく、お昼ごはんはお茶漬けになった。

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