こんにちは、佐橋です。
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さて今回は作者フォローしていただいた方への還元企画第五弾、「陰キャ女子たち~」のSSをお届けします。
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本編はいよいよ佳境を迎え、ハッピーエンドまで全力疾走中。
ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。
それではお楽しみください。
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夜凪君江。
彼女は生粋のホラー好きだ。
ホラーであれば媒体は問わず、漫画でも映画でも小説でも触れている。
将来はホラー好きなこともあってホラー小説作家になろうと、せっせとアイデアをまとめては推敲していた。
君江がホラーを好きになったのは、まだ彼女が小学生だった頃。
あのときは自身の特徴的な笑い方が好きではなかった。
気味が悪いと思われるのではないかと不安になっていたものの、幼馴染の女子4人はまったく気にしていなかった。
だが子どもにとって、周りとの違いは大人が思う以上に気になるものだ。
そんなときに祖母の家で『狐のお宿参り』というホラー映画を観た。
事故で死んだ狐が死んだことに気づかず、人間のいる宿に出ては人を化かして笑う話。
その笑ったときの狐の鳴き声が、君江の笑い声である「ぐひひ」と酷似していたのだ。
それ以来、妙にシンパシーを感じてしまった彼女はホラーにどっぷりと浸かる。
笑い方が気味が悪くたっていい。見た目が気持ち悪くたっていい。
ホラーに出てくる化け物と同じで、わかる人にはわかる魅力があるはずだから。
そう彼女は信じるようになっていた。
普通、そんな人は目の前に現れない。
どこかそれを彼女もわかっていた。
だが運命は唐突にやってくる。
神瀬遊里。
この青年こそ、君江の言う『わかる人』だったのだ。
地味で不気味な自分の冴えない見た目も、化け物とお揃いのこの笑い方も。
彼はそのすべてが好きだと言ってくれた。
もうそれだけで、君江が彼を好きになるのは必然だったのだ。
それまではある意味慰めのように観ていたホラー映画は、今では彼と隣り合って微笑みながら観るものになっていた。
「くるよくるよ~! 怖いのがくるよ~! ぐひひっ!」
タイミングを見計らってビックリしたようなフリをすると、そのまま彼に抱きつく。
そして恥ずかしさと映画の怖さの板挟みで右往左往する彼を見て、君江は心底満足そうな表情を浮かべるのであった。
彼と生活する中で、君江にはある発見をする。
それは緊張しているときには「ぐひひ」という笑いが減ることだ。
告白されたときや、最初に彼と一緒にお風呂に入ったときもその笑いは少なかった。
だが慣れてきた今では、もういつだって笑いが止まらない。
恋愛についてはかなりの奥手だった君江だが、告白されてからはグイグイといけるようになっていた。
それは彼が何をしても許してくれる上、自分を認めてくれるという絶対的な安心感を得たからだ。
すっかり彼にベッタリになってしまい、トイレにすらついて行く始末である。
一緒に入ってきた君江に困惑する彼。
しかし彼女はいつものように笑っていた。
「ぐひひっ、脱がせてあげよっか~? いいのいいの~、私がやってあげるから~」
一度気を許してしまった君江は、もう彼から離れられなくなっていた。
しかし朝も昼も夜も一緒にいたいと思っていても、学校があるとなかなかそうはいかない。
だから彼女は連絡手段である『さいフォン』でことあるごとにメッセージを飛ばし、通話をかけていたのだ。
彼が漫画家として多忙な日を送っているのはよく知っていながらも、君江は気持ちを抑えることができなかった。
頑張っている彼を褒めて、労って。
そうすれば邪魔をしているわけじゃないんだと、自分に言い聞かせていた。
ちょっとワガママなのは、どこかの狐とそっくりだ。
何か彼が達成したと聞けば、すぐに褒めて甘やかす。
それが君江のポリシーだ。
「おぉ~! テスト頑張ったんだねぇ~! う~ん、えらいなぁ~。よしよし、い~っぱい頭撫でてあげる。ぐひひっ……そうだ! 膝枕してあげよう~!」
彼にこちらを向いたまま、柔らかい膝へ横になってもらう。
スカートをわざと上にやって股を少し開き、黒い下着が彼の目の前にくるようにする徹底ぶり。
赤面する彼を、君江は優しく撫で、耳元で囁く。
「もっと顔近づけていいんだよ~? ひひっ、たくさん頑張ったんだから~……恥ずかしがらずに~」
その言葉どおりに顔を埋めてくる彼。
かかる息を感じながら、君江は目をトロンとさせて耳を触る。
「ぐひひっ、耳が真っ赤だねぇ~。かわいい、かわいい~。じゃあ次は上を向いてくれるかな~?」
彼が顔を上げると、優しく唇を重ねる。
頬を触りつつ、舌で互いを抱き合うようにして絡めた。
「ひひっ。気持ちいいねぇ~、キスするの~。もっとしちゃうよ~! ぐひひ~」
彼が喜んでいるのがわかって、さらに愛してあげたくなってしまう。
もっと自分を見て、と言わんばかりに溢れる愛で彼を包み込む。
『狐のお宿参り』で、狐は人を化かしたときに「ぐひひ」と笑う。
あれは決して人間を嘲笑して出たものではない。
死んだ自分に、この世から弾き出された自分に気づいてくれて、それがたまらないほど嬉しくて出てしまった笑いなのだ。
その狐の気持ちが、今の彼女にはよくわかる。
だから今日も君江は彼に笑いかける。
私に気づいてくれてありがとう、と。