• ラブコメ
  • 異世界ファンタジー

【作者フォローお礼企画・第六弾】SS「姉小路姫子の過去」

こんちには、佐橋です。
いつも応援いただき、ありがとうございます!

今回は作者フォローしていただいている方へ向けての還元企画第六弾であります「陰キャ女子たち~」のSSをお届けします。

まだ本編をご覧になっていない方はそちらを先に、作者フォローがまだの方は作者フォローをお願いします!

本編は明日、完結となっております!
毎日更新を続けてこられたのは、ひとえにみなさまの暖かい応援のおかげです。
ぜひ最後までご覧いただけると幸いです!

それではお楽しみください。

//////////////////////////////////////

 姉小路姫子。

 彼女は自分の名前が好きだった。
 姉小路にせよ姫子にせよ、なんとなく可愛い感じだったから。

 子どもの頃の彼女は大人しく、お人形遊びが大好きな女の子だった。
 もちろん今のような派手な髪色ではなく、ベタ塗りでもしたのかと思うほどに真っ黒。
 お嬢様学校である桜栄学園高等学校に通い、お上品な制服に身を包んで生活を送っていた。

 だが、内向的な性格が災いしてか友人がまったくできなかった。
 可愛いものが好きな彼女だったが、周りの女子は美しいものや綺羅びやかなものに興味があるようで、話にもついていけなかったのだ。

 そして彼女が中学生に上がった頃。
 一人で図書室へ行き読書するのが日課だった姫子は、一冊の小説と巡り合う。

 タイトルは『殴り愛‐烈‐』
 表紙には見るからに元ヤンキーの教師である女主人公が、気弱そうな男子学生と背中合わせになっている。
 どうしてこんな小説が由緒正しきお嬢様学校の図書室にあるのかはわからないが、どうやらこの二人の恋愛ものらしい。

 なんにせよ姫子にとって、それは住んでいる世界がまるで違う話。
 だからこそ興味を引かれ、彼女はつい手に取ってしまった。

 1ページ読むと、最初のセリフは「あたしについてきな!」だった。

 もうその時点で姫子は小説の世界に引き込まれてしまった。

 そして1話、1冊とスルスル読んでしまったのだ。

 姫子は主人公のヤンキー女に憧れてしまった。
 彼女の堂々とした姿、歯に衣着せぬ物言い、そしてときおり見せる優しさに。

 一目みて、これが自分の歩むべき道だと感じたのだ。
 思春期とは男女問わず、こうしてすぐに感化されてしまう。

 そこからの姫子の行動は早かった。

 髪を主人公に倣って金髪に染め、服を着崩し、鋭い表情をできるように鏡とにらめっこして練習した。
 喋り方も威圧感のあるようなものへと変わり、かつての愛らしい面影はどこへやら。

 好きだった名前も似つかわしくないと思い、呼ばないように親へ言った。

 だが親はそんな非行にも思える姫子の変化に、叱るどころか喜んでいた。
 うちの娘にも反抗期がきた、と。

 ただ見かけを変えることはできても、不良にはなれなかった。
 生まれ持った優しく繊細な心までは、変えることができなかったのだ。

 そして結局、大人になっても思春期を引きずり続けてしまった。
 ここまで来たらとことんやってやろうという気持ちで、あの主人公と同じ教師にまでなった。

 容姿が学生に引かれるかとも危惧していたが、その内面とのギャップが彼女たちを魅了し、校内で一番の人気教師となったのだ。

 しかし、あの主人公にまだ届いていない部分がある。

 そう、恋する相手だ。

 これまで女子しかいない空間で育ってきた上、もう30歳を越してしまっている。
 正直もう別にいいかとも思っていた姫子だが、やはりどこかで諦めたくない気持ちもあった。

 そんな中、覆い隠していた気持ちをガッシリと掴み取ってくれたのが神瀬遊里だ。

 年齢も立場も気にしないと言ってグイグイと言い寄られると、男に免疫のない姫子の内に眠っていた乙女心は爆発してしまったのだった。

 学校では鋭い目つきをしている彼女は、彼へはデレデレな視線を向けてしまう。

 今日も朝まで一緒に眠って、さきに目を覚ましたところだ。

「よく寝ているな……どんな夢を見てるんだ? 悪い……ちょっと匂い、嗅がせてくれ……」

 寝ている彼を抱きしめ、胸に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。

 しかしそれだけでは飽き足らず、頰にキスを始めた。

「お前のほっぺ……本当にふにふにでツルツルだなぁ……んちゅっ」

 何度も何度もキスし、しまいには唇にもしてしまう。
 閉じている口を舌でこじ開け、その中をうっとりしながら舐め回す。

 こんな姿、自分を慕う他の学生には絶対に見せられない。
 教師として恥ずかしい行為をしているとわかっていても、恋心は理性では止められないのだ。

「あぁ……ダメだ、辛抱できん」

 脚で彼を抱き寄せ、全身を擦り付けながらキスをする。

 さすがにそこまでされると目が覚めたようで、彼と目が合う姫子。

「……あ。いや、これは」

 顔がカーっと赤くなるが、もう誤魔化すことはできない。
 ならもう突っ走るしかないのだ。

 自身のパジャマを緩め、胸元をはだける。
 そして彼の顔をそこへ持っていった。

「わかるだろ……ドキドキしてるのが」

 彼は頷き、目を細めて身体を委ねた。

 そしてその手は、姫子の大きめの尻にやってくる。

「し、尻も好きだよなお前……。まぁいい……これもお前のものなんだからな」

 その許可を聞いて、下着のところまで指が入り込んできた。

「先に手を出したのはあたしだ。でもこれで引き分けだな……フフッ」

 そう言い、顔を上げた彼にキスの雨を降らせていく。
 休みの日は暇さえあればこんな調子だ。

 姫子は『殴り愛‐烈‐』のヤンキー主人公を追いかけ続けて学生時代を送った。
 だが、たどり着いたのはあの漫画と似ているようで少し違う状況だった。

 そう、これは殴り合いなんてせずに、ただ愛し愛されるだけのべらぼうに甘い恋物語なのだ。

 だって彼女はヤンキーではなく、ただその生き方に憧憬の念を抱いただけの心優しい女の子なのだから。

 少し他の人よりも遅めにやって来た青春を、姫子はようやく謳歌する。

 たった一人、彼女を恋する乙女に変えられる彼の前で。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する